Topic outline
Topic 1
各半反応式の標準電極電位を比べると、どのような酸化還元反応が起こるか、だいたい予想できます。これは、「マイナス電荷の電子は、電位の低い方から、高い方へ流れる」という自然法則に基づきます。
以下に、二つの半反応があったとき、どちらから、どちらへ電子が受け渡されるか(反応の進む向き)が分からない状況から考えます。反応の進む向きと、全反応式の記述の仕方を1)~4)の順で説明します。
1)二つの半反応を上下に記し、それぞれの標準電極電位を縦軸に記す。
2)電子は低電位から高電位を流れる法則に基づき、電子の流れる向きを判別
各元素の酸化数を記し、電子の流れる量を記す。電子を授受する物質を判別
3)各半反応の進む向きを矢印で記す
4)両半反応で原形を左辺、生成形を右辺に配置して、両半反応を足し合わせる。左辺と右辺で同じ物質があるときは、キャンセルアウトする。
呼吸における半反応の標準電極電位が呼吸形式の順番を決めます
水中に硫酸、硝酸、酸素が混在するとき(下図の左側)、有機物を酸化する呼吸反応では、最も高電位の酸素の還元反応(酸素呼吸)だけが起こります。これは、電子は、低電位から高電位に流れる自然法則に基づき、有機物から放出された電子は、硫酸や硝酸を素通りして酸素に渡されるからです。
硫酸呼吸(硫酸還元)と青潮について
さて、水中で酸素が枯渇すると、酸化剤として硝酸を利用する微生物(硝酸還元菌)が現れます。硝酸もなくなると、絶対嫌気性細菌の硫酸還元菌が現れます。先に説明したように、硫酸還元が起こるのは、有機物と硫酸イオンが豊富にある環境で、外界からの酸素供給が著しく制限されている場所です。海水には硫酸イオンが豊富に含まれるから、海洋堆積物で表面から数センチ~数十センチの深さのところで硫酸還元が起こります。海洋堆積物を採取すると、そのような深度で硫化水素臭がしたり、硫化水素と鉄イオンが反応してできる黒色の硫化鉄(FeS)の層がみられることがあります。
有機物の堆積量が多く、底層水が滞留しているところでは、底層水が無酸素状態になることもあります。海洋堆積物の表面近くで硫酸還元が起こり、硫化水素が発生します。この猛毒の硫化水素が無酸素の底層水中に貯まると、海洋環境の悪化が著しいのです。さらに、気象擾乱により底層水が湧昇して、表層の酸素と出会うと、硫化水素が還元されて単体の硫黄粒子が形成されます。この硫黄粒子コロイドは光を散乱するので、海上から眺めると、青く見えます。これが青潮です。青潮が発生している表層水は、貧酸素にもなっているので、魚類が死滅するなどの被害も起こえます。単体の硫黄粒子も、いずれ酸化されて硫酸イオンに戻ります。
ここまで、生物の呼吸反応を例にして、化学反応前後における標準生成ギブズエネルギーの合計差(⊿∑Gf0)を計算してきました。少し、馴染んできたでしょうか。
次のコースでは、⊿∑Gf0を使って、化学反応が完了した(平衡状態になった)ときの各物質の濃度を計算します。ここからが、分析化学において、化学平衡を計算する本番になります。
なお、水産学部の海洋生物科学科において、分析化学を扱うにあたっては、次のコースの化学平衡の基本式を覚えて使えればよいです。