半反応のエネルギーバランスと標準電極電位
電子のもつエネルギーを考慮して半反応式のエネルギーバランスを考えましょう。
ところで、電荷(電子など)があるところには電場が生じ、その電荷は、電場の電位に応じたエネルギーをもっています。
ややこしい説明はどうでもよいから、
「ある電位E (V or J/C)にある電荷量q (C)は、q・Eのエネルギー(J)をもつ」
「1モルの電子(e-)の電荷量(C)の絶対値は96485 (C/mol)であり、これをファラデー定数(F)とよぶ」
を覚えること。
これもややこしいから、以下の式だけは必ず覚えること。
「n モルの電子がもつエネルギー 」= -n・F・E
F:ファラデー定数96485 (C/mol)、E:電位(V or J/C)
ファラデー定数は、1モルの電子が持つ電荷量の絶対値です。電子はマイナス電荷なので、マイナスのエネルギーを持ちます。したがって、上の式では電位にファラデー定数をかけて、マイナスをくっ付けているのです。
※電子は負電荷だから、エネルギーの式にはマイナスがつくことを忘れない。半反応の標準電極電位を求める例題
有機物酸化の半反応①で移動する電子4e-に生じる電位をE①(V)とします。
ボルト(V)の単位は(J / C)と換算できます。J(ジュール)はエネルギーの単位、C(クーロン)は電荷量の単位です。1モルの電子がもつ電荷量の絶対値は、ファラデー定数(F)96485 (C / mol)で与えられます。
したがって、半反応式①の電子4e-がもつエネルギーは、-4・F・E① (J)です。
この電子がもつエネルギーを含めて、各物質の標準生成ギブズエネルギーを半反応式の下に記し、半反応の左辺と右辺でエネルギーがバランスする式を解きます。
有機物酸化の半反応の標準電極電位
(原形) (生成形)
① CO2 + 4H+ + 4e- = CH2O + H2O
Gf0 (kJ/mol) -385 0 -129.7 -237.18
電気エネルギー(J) -4FE①
左辺と右辺の合計エネルギーがバランスする式:
-385・103 -4FE① = -129.7・103 -237.18・103
未知数 E① を求めます。
E① = (-129.7・103 -237.18・103+ 385・103)/(-4・96485) = -0.05 (V)
これは、左辺(原形)と右辺(生成形)の標準生成ギブズエネルギーの合計差(生成形-原形)が4電子に与えられることを意味します。酸化還元反応では、この電子に与えられたエネルギーを使って化学結合を組み直すのです。
そのエネルギーから計算される電位(E①)を、その半反応の標準電極電位とよびます。標準生成ギブズエネルギーは物質に固有の値を持つので、半反応式ごとに固有の標準電極電位をもつのです。
酸素呼吸において、
酸素分子が還元される半反応式②の標準電極電位を求めます。
酸素呼吸(酸素還元)
② O2 + 4H+ + 4e- = 2H2O
Gf0 (kJ/mol) 0 0 2(-237.18)
電気エネルギー(J) -4FE②
エネルギーバランス:-4FE② = 2(-237.18・103)
E② = 2(-237.18・103)/ (-4・96485) = 1.23 (V)
硫酸還元の半反応の標準電極電位を求めます。
硫酸呼吸(硫酸還元)
④ SO42- + 10H+ + 8e- = H2S + 4H2O
Gf0 (kJ/mol) -744.5 0 -27.78 4(-237.18)
電気エネルギー(J) -8FE④
エネルギーバランス:-744.5・103-8FE④ = -27.78・103-4・237.18・103
E④ = (-27.78・103-4・237.18・103+744.5・103)/ (-8・96485) = 0.30 (V)
※ギブズエネルギーの単位にキロ(k)がついているので、1000倍することを忘れない