Topic outline
分析化学の教科書では、
「標準試料を作って、分析して、検量線を作り、濃度定量する。」
と、簡単に説明されています。確かに、原理は簡単です。しかし、環境分析化学を実践すると、この濃度を定量するところが一番難しいのです。 練習問題(1-1)は、簡単な例です。練習問題(2)以降が難しくなります。
標準試料分析の結果をプロット、検量線の回帰式から、未知試料の濃度を求める問題
雨水に含まれる無機イオン成分をイオンクロマトグラフィーで測定しました。強度法にて硝酸イオン(NO3-)の濃度を求めてください
雨水を分析する背景:水蒸気が凝結してできる雲の水は真水に近いです。しかし、雲粒ができるには、その核となる水溶性の微粒子が必要です。雲粒には、少しばかりは水溶性成分が含まれています。何を核にして雲ができるのか?を調べるには雨水の成分を調べればよいでしょう。大気には、酸性ガスやアンモニアガス、有機ガスが含まれていて、雲粒や雨粒に吸収されます。それらが汚染物質であれば、汚染状況を調べるにも雨水分析が必要になります。
雨水分析の手順(①~④)を示しました。
① 空から降ってくる雨粒を大気に開放したロートで集める
② 集まった雨水をボトルに保管する
③ 試料水(雨水)をフィルターでろ過してから、イオンクロマトグラフィーに導入する
④ イオンクロマトグラフィーにより、試料水中の水溶性イオン成分の信号強度を検出します
信号強度の検出の原理-イオンクロマトグラフィーによるイオン成分測定-
イオン交換樹脂を充填したカラムに雨水試料を通します。イオン成分によってカラムを通過する時間が異なるので、カラムを通過した試料水の電気伝導度を時系列で測定すれば、其々の成分を分離して信号強度を得ることができます(下図を参照)。試料水中のNO3-の濃度が高いほど、電気伝導度の値が大きくなります。電気伝導度の大きさの違いから、試料水中のNO3-の量を求めます。
例題(1-1)の問題文
まずは、純水をベースに標準試料を作成して、それをイオンクロマトグラフィーで測定します。NO3-が出てきたときの電気伝導度のピーク高さ(信号強度)が以下のように得られました。データファイルをダウンロードして、A)とB)を求めてください。
標準試料 調整濃度 測定結果
① ブランク(NO3-濃度 = 0) → ピーク高 = 1030
② 標準試料(NO3-濃度 = 0.002 mg L-1) → ピーク高 = 3500
③ 標準試料(NO3-濃度 = 0.02 mg L-1) → ピーク高 = 36150
④ 標準試料(NO3-濃度 = 0.10 mg L-1) → ピーク高 = 163223
⑤ 標準試料(NO3-濃度 = 0.20 mg L-1) → ピーク高 = 330409
⑥ 標準試料(NO3-濃度 = 0.50 mg L-1) → ピーク高 = 814093検量線(回帰曲線)を図にプロットする方法も簡単に記しています。
以下、A)とB)に従って、このエクセルファイル内に記してください。
A)ダウンロードしたデータファイル(エクセル)にて、標準試料に含まれるNO3-濃度と信号強度(ピーク高さ)の関係をプロットしてください。
信号強度を横軸(X)、濃度を縦軸(Y)にしてください。
※ 一般的には、信号強度を縦軸、濃度を横軸に検量線をプロットしますが、本コースでは逆にして、y=ax+bの回帰式のxに信号強度を代入し濃度(y)を計算するようにしました。
B)未知試料1~4)の信号強度から、未知試料の濃度を計算してください。
A)で作図したプロットを右クリックして、「近似曲線の追加」を選択します。その近似曲線の回帰式を表示して、計算式を得ます。その計算式のXに、未知試料の信号強度を代入して、濃度を計算します。
(近似曲線の作り方など、同エクセルファイル内の別シートに記してあります)★ エクセルのプロットで近似曲線の回帰式を表示させると、デフォルトでは、有効数字の桁数が少なすぎる場合があります。小数点以下何桁まで表示させるかを調整して、有効桁数を増やす必要があります。
例題(1-1)の解説
例題(1-1)は、以下のようになりましたか?
(下の図は、エクセルとは別のソフトで描きました)
回帰式(検量線の式)も表示させてください。エクセルの初期設定だと、回帰式の数値が二桁しか表示されません。それでは大きな誤差を生んでしまうので、十桁くらい、多めに表示させましょう。
未知試料の信号強度(測定結果) 5.1×105 を図にプロットしたうえで、検量線の回帰式に代入して濃度を計算します。
横軸に未知試料の信号強度を記して、検量線が示す縦軸の値(濃度)を読み取ると、おおよそ、0.3 mg/L であることがわかりました。正確な値を求めるため、回帰式に未知試料の信号強度を代入します。
未知試料:信号強度(ピーク高さ)が5.1・105
(未知試料の濃度) = 0.0016079+5.9215×10-7×(5.1・105)= 0.30 (mg L-1)
検量線のグラフを目視で読み取った値と一致しました。
ここまでは、何の問題もなく、濃度を計算で求められる例題です。
分析化学の教科書でも、この辺までは説明されています。
次のコースでは、未知試料の信号強度が小さい場合、大きい場合、どのような処理が必要になるかを学びます。