参考として、雨水に含まれる無機イオン成分を分離して計測する原理を示した(次の絵)。降水を集めて、イオンクロ装置(イオンクロマトグラフィー)に雨水試料を導入、各イオン成分の濃度を測定する。雨水だけを測ればよいのではなく、後述するブランク試料や標準試料も測定しなくてはならない。

雨水試料を分析するにあたり、まずは、純水をベースに各イオン成分の標準試料を作成する。その標準試料を雨水サンプルの測定と同条件で測定する。例えば、標準試料測定で得られたNO3-の電気伝導度のピーク高さ(信号強度)が以下のようになった。
標準試料 調整濃度 測定結果(信号強度)
① ブランク(NO3-濃度 = 0) → ピーク高 =
453
② 標準試料(NO3-濃度 = 0.002 mg L-1) → ピーク高 =
3600
③ 標準試料(NO3-濃度 = 0.02 mg L-1) → ピーク高 =
34031
④ 標準試料(NO3-濃度 = 0.10 mg L-1) → ピーク高 =
163223
⑤ 標準試料(NO3-濃度 = 0.20 mg L-1) → ピーク高 =
330409
⑥ 標準試料(NO3-濃度 = 0.50 mg L-1) → ピーク高 =
814093
6種の標準試料①~⑥の測定結果について、濃度をX軸、信号強度をY軸としてプロットした(図1)。最小二乗法により回帰式を求め回帰曲線(直線)を破線で記した。(エクセルを使えば自動で回帰曲線を作ってくれる)この回帰直線が濃度定量に使う“検量線”である。図1によると、濃度と信号強度の間に高い相関※

(相関係数
R = 0.9993, 決定係数
R2 = 0.9986)がみられた。理想的な検量線といえる。
図1 硝酸イオンの標準試料を測定した結果(縦軸:信号強度、横軸:濃度)
図1にて、回帰式は以下のように表されている。
Y
(信号強度) = 1628215・X (濃度)
+ 1236
これを濃度計算の式に直すと、
X
(濃度) = { Y (信号強度) - 1236 }/1628215
である。つぎに、濃度不明の未知試料(A)~(C)を測定して信号強度を得た。これら未知試料の信号強度を回帰式に代入して濃度を求めた。
未知試料(A)の信号強度(ピーク高)= 550409
(Aの濃度) = {550409 - 1236 }/1628215 = 0.34 (mg L-1)
未知試料(A)の信号強度は、標準試料測定による信号強度の範囲内にあり、かつ、良好な回帰直線の上にプロットされたので、確からしい定量結果といえる(図2の赤矢印)。

図2 未知試料(A~C)の測定結果から濃度定量の例
未知試料(B)はどうだろうか。
未知試料(B)の信号強度(ピーク高さ)= 3000
(Bの濃度) = { 3000 - 1236 }/1628215 = 0.0014 (mg L-1)
(B)の信号強度は原点近傍であり、濃度がかなり小さいことがわかる。低濃度の標準試料②の信号強度より、ほんの少し小さい。回帰直線の低濃度範囲を拡大表示して見ないことには、確からしさが判別できない。不安である。
未知試料(C)の結果はどうだろうか。
未知試料(C):信号強度(ピーク高さ)が910000
(Cの濃度)
= { 910000 - 1236 }/1628215 = 0.56 (mg L-1)
標準試料を測定した際の信号強度を超えている(図2の黒矢印)。回帰直線を範囲外まで延長しても大丈夫だろうか? 不安である。
それでは、
(B)と
(C)の不安を解消しよう。まずは、解決が簡単な
(C)から対処する。