“分析化学”の本コースでは、その分析手法の原理(=⑥)を理解するところに焦点があてられます。
みなさんは、本コースで知識を得たうえで、大学3年次の学生実験やおしょろ丸乗船実習で分析化学を現場で学んで欲しいと思います。もちろん、このコースを受けている皆が環境分析の専門家になるわけではありません。理系人として生きてゆくなら、その基礎知識くらいは身に付けておきましょう。
というのも、しばしば、“環境問題に関する風説の流布”まがいなことが報道で垂れ流されることが見受けられます。「放射性物質が検出されました!!」とか、「ダイオキシンが検出されました!!」と扇動的に報じられる様子をみると、報道側が「検出限界の定義や意味」を理解しているとは到底思えないのです。どんな元素だって、環境中に拡散しているのだから、極めて高感度な測定をすれば、どんな元素だって検出できます。せめてテレビ画面の端にでも検出限界値を示して欲しいものです。根拠もなく危険を煽るのは良くないですよね。逆に、環境分析の手法で不正な小細工をすれば、本当に危険な物質が拡散している状況を隠すことだってできます。これらを見抜く力を、全ての知識人が持つべきではないでしょうか。
環境分析化学は環境科学の基盤を成す分野です。環境科学での最重要課題は地球の温暖化に伴う気候変化です(と、あえて断定させてもらいます)。地球が温暖化していることは確からしい事実だし、大気中の二酸化炭素やメタンの濃度が増えれば温暖化することも確かな科学的知見です。人類が二酸化炭素を多量に放出していることも事実です。これらの事実の因果関係を定量的に説明することが難しく、確かな将来予測ができない状況にあります。だから、環境分析により観測事実を積み上げて、確からしさを増す努力が続けてられています。したがって、環境分析における不確かさを極力減らす努力を続けなければなりません。
気候変化では二酸化炭素やメタンの動態が注目されますが、科学界ではその周辺領域の知見も固めて、気候システム全体を理解することを目指しています。科学者個人としては、目先の現象を解明することに没頭することもありますが、これもシステム全体を理解する一部として捉えらられます。
卒業研究の配属先によっては、環境分析化学をひたすら繰り返すこともあるでしょう。先人たちが作り上げたレシピにしたがえばOK
!、というルーチン化された項目もあります。実は、先に挙げた、海水中の酸素やリン酸、珪酸、光合成色素は海洋学で最重要パラメタなので、かなりルーチン化されています。だから学生実験や乗船実習メニューとして提供できるのです。
新たな調査項目に挑む場合、先に述べた①~⑥のどこかに問題が生じて、それを何とかクリアしなければならないのが常です。問題が発生すれば解決策を練って再トライします。問題が再発すれば別の策を練って、、、という試行錯誤を繰り返し、ようやく結果に辿りつくのです。何年もかかることだって珍しくありません。途中で諦めてはなりません。その長い試行錯誤の途中で世界初!なことが生まれるハズ。環境分析化学に携わっている研究者たちは、小さくてもいいから“世界初!”を追い求め、忍耐強く、ネバリ強く、ヒタスラ繰り返す。環境分析化学に携われば、忍耐力が養われる特典が付きます! 若者にはお勧めの学問といえるでしょう。
本コースでは、単位や有効数字のほか、検量線、検出下限、ブランク測定の基礎や実践も学びます。とくに、検量線や検出下限については、ある決まったやり方があるわけではないのです。その場、目的に応じて、研究者が定めなくてはなりません。だから、普通、分析化学の教科書には記されていません。しかし、環境分析化学では一番大事なところなのです。
本コースでは、化学平衡の条件式を導出します。これは物理化学や熱力学の範囲になりますが、普通、分析化学とセットで学ぶべきことなので、本コースでもその考え方を学びます。私自身が物理学科出身というのもあって、物理っぽい話しが多くなります。ただ、私も熱力学をイチから学びなおしてコースを作ったつもりです。普通の教科書よりも、丁寧かつマニアックな内容にするつもりです。
※ どんな教科書にも記してある、「単位表記」とか、「物理量」の説明は省きます。