海洋生態学実習 3: 潮間帯生物の垂直分布調査
北方生物圏フィールド科学センター・厚岸臨海実験所で実施される実習の紹介です
北方生物圏フィールド科学センター・厚岸臨海実験所で実施される実習の紹介です
岩礁潮間帯において海藻などの固着生物は、種類によりその生育場所の高さが異なる帯状分布を示す。本実習ではベルトトランセクト法を用い、その垂直分布を調査する。
用具:
ロープ、コドラート(20cm × 20cm)、角度計、画板、水中ノート、方眼紙、鉛筆、折尺、シリコンチューブ、ポリ袋、箱メガネ
方法:
(1) あらかじめ設定した調査場所(垂直分布の最上部から潮間帯下部までを含み、帯状の分布が見られるところ)において、ロープを置いて調査ラインを設定する。
(2) コドラートをラインに沿って置き、ラインに平行にスラントルールを当てて角度を記録する。(3) コドラート内の生物の種類と被度を記録する。海藻のほか、固着動物や移動範囲が狭い匍匐動物も記録する。被度は、コドラート内でその生物が覆う面積の割合とする。裸面の占める割合も測定して記録する。他の生物と重なっていれば、そこに出現した種類の被度の合計が100%を越えることもある。
その場で10%毎の値を与える。5%未満のものは、+とする。被度は後で以下のように6段階の階級で示しても良い:
+(+); 1(5-20%); 2(20-40%); 3(40-60%); 4(60-80%); 5(80-100%)。
種の同定が困難な場合は標本を持ち帰って調べるか、または「ホンダワラ科幼体」「糸状微小紅藻」などのように類別する。類別の仕方は前もって決めておく。ビニール袋にコドラート番号を書き、そこに持ち帰る生物を入れる。
記録係は調査地点全体のおおよその横断面のプロフィールを記録しておくとあとで、プロフィールを再現する時に便利である。また、最干潮時刻の海面の位置をその調査地点プロフィールに記録しておくと良い。
(4) コドラートをラインに沿った隣の場所に置き、同様の記録をとる。これを調査ラインの端に達するまで繰り返す。
(5) 調査日の干潮の時刻と潮位を調べておき、調査時にその時刻の実際の海水面をライン上で記録しておく。図 ベルトトランセクト法による調査と海藻の帯状分布
結果のまとめと発表会:
(1) 垂直分布調査の結果は班毎にグラフとしてまとめ、そのグラフを用いて調査結果から言える事などを各班毎にプレゼンテーションしてもらう。
(2) 方法(2)で記録した角度をもとに、方眼紙を用いて調査ライン(トランセクト)の横断面模式図を作成する。
(3) その横断面模式図の上に、調査の結果(生物毎の分布)を図、グラフなどで示す。
(4) 環境要因とそれらの生物の生理的特性を推察して結果の考察(調査結果から、生物種の出現にどのような傾向があるか、それはどのような要因によるのかなど)を行う。その際、出現種の生活形(体型・寿命類型)に着目すると良い。
(5) 作成した図を示しながら、調査結果の概要と考察を班毎に発表する。
高潮線と低潮線(厳密には大潮最高高潮線と大潮最低低潮線)に挟まれた海浜の部分を潮間帯と呼ぶ。このたかだか2mの幅(太平洋岸での数値〜地域によってこの幅が異なる)の狭い帯状の部分には驚くほど多種多様な生物が生息しており、とくに岩礁帯の潮間帯ではそれがもっともはっきりした形で認識できる。潮間帯の第一の特徴は、1日2回生ずる潮の干満により、海中に没したり、空気に露出されたりすることで、そこに生息する生物はいわば、水中生活と陸上生活の両方を余儀なくされているとも言える。すぐに気づくことであるが、潮間帯の上部へ向かうほど空気に露出している時間が長く、生物帯は乾燥状態に長い間さらされることになる。反対に、下部へ行くほど海水に没している時間が長く、生物は湿った状態におかれることになる。
このように一口に潮間帯と言っても潮間帯上部から潮間帯下部にかけて著しい環境条件の勾配が存在する。それぞれの生物は潮間帯の最も適する環境条件下にニッチを占め(もちろん生物相互の作用も影響する)、その結果、狭い幅の帯状に分布することになる(帯状分布)。帯状分布は海藻にも動物にも見られ、それぞれ乾燥に強い種類は潮間帯の上部を占め、湿った状態を好む動植物は潮間帯下部に分布する。また、この帯状分布構造は被食圧や波の強さの影響も受けると考えられる。
図. 潮間帯の上部は基本的には海水が届かないが、実際には海水のしぶきがかかる場所があり飛沫帯と呼ぶ。最低低潮線より下は空気中に露出することはなく、漸深帯と呼ぶ。
干潮時に潮が引いて、潮間帯が露出すると所々に、岩のくぼみに海水が取り残され大小の「池」が出現する。これらは潮だまりあるいはタイドプールと呼ばれる。タイドプールもまた、ユニークな生活環境を生物に提供する。タイドプールは常に海水で満たされてはいるが、その環境条件は安定したものとは言い難い。例えば夏の暑い盛りには水温は40℃近くにもなり(北海道ではなかなかそこまでは上がらないが・・)、1日の水温の変化はかなり大きい。また、雨が大量に降れば、真水が流入して塩分濃度は下がるであろうし、晴天が続けば蒸発により塩分濃度は高くなるであろう。このようにタイドプールは生物にとってかなり過酷な環境のようであるが、そこにも多種多様な生物が生息しており、機会が有ればそのような生物にも注目して欲しい。
潮の干満の生じる最大の原因は月による引力である。これにより海水は月の方向へ引っ張られる。一方、月と地球はお互いの引力で引っ張り合い一つのユニットとして同じ軸のまわりを回転しているが、地球の質量が月のそれに比較して非常に大きいため(約100倍)その軸は地球内部に存在することになる。この共通の軸状をまわる回転により、遠心力が生じ海水は軸から遠い方向、すなわち月とは反対の方向へ引っ張られる。この引力と遠心力が平衡して結局海水は両方向へ引っ張られることになる。地球それ自体は自転をしているので、地球上のある一点は1日のうちにa-b-c-dの地点を通過する。これが1日に2回の潮の干満が生じる理由である。
さらに、影響力は月ほどでないにしろ、この引力と遠心力の関係は太陽からの引力にも影響される。月—地球—太陽がほぼ直線にならぶ満月・新月のころには太陽からの引力が加算されて、そのぶん潮がよく引く。一方、月—地球—太陽がほぼ直角の位置に並ぶころは、引力を打ち消し合い、潮はそれほど引かない。従って、潮の程度や時刻は、季節、地形や経度・緯度等によって異なるので、正確な干潮の時刻やどの程度の潮が引くかなどは、その地方の潮汐表や新聞の天気欄などで調べる必要がある。
太陽、地球、月がほぼ一線に並ぶと潮の干満の差が大きくなり(大潮)、直角の位置に並ぶと潮があまり引かなくなる(小潮)。
満潮・干潮の時間とその程度は気象庁のホームページで調べることが出来る。
【解説:気象庁ホームページより】
このホームページに掲載している潮位表は、過去に観測された潮位データの解析をもとにして計算した潮位の予測値(天文潮位)をまとめた資料です。この予測値(天文潮位)は、気象などの様々な要因を受けることで実際に観測される値(実測潮位)とは異なりますので注意して下さい。過去に観測された値については、潮汐観測資料をご覧ください。また、最新の潮位の実況(昨日・今日・明日の実測潮位および天文潮位)については、潮位観測情報をご覧ください。
ここに記載している潮位は、潮位表基準面表示(潮位表基準面からの高さ)およびTP表示(標高)をcm単位で表しています。潮位表基準面は各地点ごとに異なっています。潮位表基準面の標高の値は、潮位表掲載地点一覧表及び各地点の潮位表のページの上部に掲載しています。TPとは東京湾平均海面のことで、標高の基準となります。なお、離島など一部の地点では、標高の基準を東京湾平均海面の代わりに国土地理院による高さの基準やMSL(平均潮位)等を用いています。潮位の値を、潮位表基準面表示からTP表示にする場合は、画面の指示に従って表示を切り替えてください。なお、「潮位表基準面の標高」の値は、測量成果の反映およびMSL(平均潮位)の推移等により毎年更新されますので注意して下さい。表示期間は、最大5週間です。
また、時刻は、全て日本標準時(JST)によって掲載しています。
○ 岩礁潮間帯の生態学について