海洋化学(とくに水の化学)の研究をしていると、海底堆積物における物質変化の影響が直上の水に及んでいることが捉えられます。とくに、沿岸海域であれば、なお更です。しかし、海洋化学者が自ら海底堆積物を採取して、堆積物の作用を検証するには至らないことが多いのです。堆積物研究には、多くのハードルがあるのが原因です。まず、堆積物を採取する道具を調達しなくてはなりません。これが重量物ばかりで大変で腰を痛めそう。大勢の手助けが必要です。いざ、堆積物を採りに行っても、海底面が岩や石でゴロゴロしていると、失敗続きになってしまいます。砂地だって、採取菅が深く挿さらないし、堆積物が採れても、採取菅から砂と水が流れ落ちてしまいます。
以下の映像は、北海道太平洋沿岸(水深300 m弱)でのマルチプルコア観測の様子を撮影したものです。細かい砂に有機物が混ざった堆積物のため、比較的採取されやすいハズでした。しかし、下蓋を下ろして、採泥管を抜くときに、管内で泥が上方に舞っているのが見えます。実は、採泥失敗の様子なのです。
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なんとか、状態のよい堆積物が採れたとして、まず、堆積物の表面から深い方へ酸化還元電位やpHを計測したうえで、堆積物を1cm毎に切り分けます。そこから間隙水を絞り、絞りカス(粒子状物質)を集めるのです。間隙水中にある物質は酸素と触れるとすぐに酸化してしまうので、できるだけ船上で分析を済ませた方がよいでしょう。とにかく、手間がかかります。
下に、堆積物コアサンプルの処理の手順を示しました。まず、酸化還元電位やpHをセンサー計測します。各電極を堆積物表面から突き刺して、安定を待ってから計測値を読み取ります。続いで、コアサンプル底部から棒で押して堆積物を上げます。1 cmごとに切り分けて、サンプルを袋に入れます。空気と触れると化学変化してしまうので、空気との接触を排除するのが理想ですが、私たちの研究室ではそこまでできていません。(有機ヨウ素ガスをメインに扱っているので、それでもOKということにしています)袋に吸引管を入れて、間隙水を吸引回収します。その間隙水をろ過したうえで、各種化学成分の計測をします。
下の写真は、堆積物にセンサー(電極)を突き刺したところです。初めてだったので、いろいろな道具を試しました。
下の写真は、コアサンプルの直上水を私と学生二人でシリンジ吸引して採取しているところです。これも初めてだったので、3人かかりです。慣れてくれば、学生二人で手際よく処理できるようになります。