では、計算してゆきます。
半反応(④’)の各物質の標準生成ギブズエネルギーを下に記して、生成形と原形の合計差⊿Gf0を求める。
原形 生成形
半反応(S) SO42-
+ 9H+ + 8e- = HS- + 4H2O
Gf0 (kJ/mol) -744.5 0 12.08 -237.2
原形と生成形にある物質の標準生成ギブズエネルギーの合計差:⊿Gf0
⊿Gf0 (J)
= 12.08×103 + 4(-237.2×103) - (-744.5 ×103) = -192220
原形と生成形のエネルギー(電子も含めて)が等しい条件から、標準電極電位E0 を求める。
E0 = -⊿Gf0 /(n・F) = -(-192220) / (8・96485) = 0.249 (V)(≒0.25)
ネルンストの式に当てはめると、
E = 0.25 - 0.003208・Ln {([HS-][H2O]4)
/ ([SO42-][H+]9)}
物理化学の決まり事でとして、[H2O]=1とします。
E = 0.25 + 0.003208・Ln([SO42-]
/ [HS-]) + 0.003208・9・Ln [H+]
= 0.25 +
0.003208・Ln([SO42-]
/ [HS-]) +
0.003208・9・Log[H+] /
Log(e)
= 0.25 + 0.003208・Ln([SO42-]
/ [HS-]) - 0.06648×pH
水素イオン濃度をpHで書き直しました( pH = -Log10[H+] )
SO42-とHS-が同じ比率で存在する境界条件([SO42-] / [HS-]=1 )をつけると、
E = 0.25 - 0.06648×pH (式1)
となります。
例えば、海水pH = 8を代入すれば、[SO42-]と [HS-]の存在比の大小を分ける境界はE = -0.28 (V)となります。
[SO42-] >> [HS-]の存在比率になるのは、環境水の酸化還元電位がE >-0.28(V)、
[SO42-] << [HS-]の存在比率になるのは、環境水の酸化還元電位がE <-0.28 (V)
と表されます。
ここで注意したいのは、これは熱力学定数から求めた境界条件であり、実際の堆積物中ではE<-0.1 (V)で硫酸還元(HS-の発生)が起こることが確認されています。生物の作用(生物体内の局所的な還元環境や酵素の作用)により、熱力学計算上の境界条件よりも酸化的な環境で硫酸還元が起こっている。また、硫酸還元の速度も、微生物の作用により格段に速くなっていると考えられています。