呼吸反応の標準生成ギブズエネルギーの合計差(得られるエネルギー)
有機物(還元剤)を酸化剤(酸素など)で酸化分解するのが呼吸反応です。呼吸反応では、反応後に二酸化炭素や水が発生します。反応式を記して、反応前後にある物質の標準生成ギブズエネルギーの合計差を計算しましょう。その合計差が、呼吸反応で得られるエネルギーです。
酸素呼吸
真核生物は、酸素を使って有機物を酸化しエネルギーを得ています(酸素呼吸)。下の欄に、有機物として一番単純なホルムアルデヒドを仮定し、呼吸による有機物酸化の反応を記しました。各物質の下にそれぞれの物質の標準生成ギブズエネルギーを記しています。化学反応の生成形(右辺)の合計エネルギーから、原形(左辺)の合計エネルギーを差し引いた値(⊿∑Gf0)が、生物が獲得できるエネルギーです。エネルギー差にマイナスがついている理由は、反応系からみるとエネルギーを失っていて、その分、生物が獲得できるからです。
※反応前を原形、反応後を原形といいます。
この例のように、反応式の下に、各物質の標準生成ギブズエネルギーを記し、反応前後(左辺:原形、右辺:生成形)における合計差(⊿∑Gf0)を計算します。各物質の標準生成ギブズエネルギー(Gf0)は、大事な熱力学定数です。一つ前のコースにてダウンロードできます。
※標準状態にあるO2の標準生成ギブズエネルギーは0 (kJ/mol)ですが、それを水中に溶かすとエネルギー(16.3 kJ/mol)が生じます。水中での呼吸を想定して、上のようにO2(aq)の標準生成ギブズエネルギーを使って計算しました。また、生物が、水中で二酸化炭素を吐き出せばCO2(aq)を使うべきですが、気相に吐き出すならCO2(gas)の値を使うべきでしょう。水中の植物が光合成で二酸化炭素を使う際も、もしくはH2CO3やHCO3-なのかで計算に使うエネルギーが変ってくる。本コースでは、その辺は適当に扱ってしまっています。
硝酸呼吸
次に、酸素がないところでは、硝酸を酸化剤にして呼吸をする生物が現れます。硝酸還元菌として知られています。
酸素呼吸よりも、硝酸呼吸の方が得られるエネルギーが若干少ないように見えますが、実際には、硝酸還元は2段階で起こっているのです。硝酸還元バクテリアがNO3-呼吸をしてNO2-を吐きだし、次に亜硝酸還元バクテリアがNO2-呼吸をしてN2を吐き出している。2段階に分ければ(得られるエネルギーが半分ずつになるので)、酸素呼吸よりもだいぶ効率が悪くなる。
マンガン呼吸と鉄呼吸
酸素も硝酸もほとんどなくて、酸化マンガン(MnO2)と有機物は沢山あるような環境を想定します。酸化マンガン鉱物が露出したところに水が溜まって、有機物が蓄積したような環境でしょうか。こんな特異的な呼吸形式をもつ生物(原核生物)もいるそうです。鉄の方がありふれているので、水酸化鉄を酸化剤とする鉄呼吸細菌もいます。
獲得できるエネルギーも、110 kJとだいぶ少なくなりました。
硫酸呼吸
酸素はもちろん、硝酸までなくなり、酸化マンガンや水酸化鉄などの酸化鉱物もなければ、硫酸を酸化剤とする生物が顔をだしてきます。
水環境中の溶存硫黄化合物の中で、構成元素(SやO)から合成するのにエネルギーを最も要するのが硫酸です。そんな安定な化合物から酸素を引き剥がすには大きなエネルギーが必要で、有機物から得られるエネルギーをそれに使ってしまいます。その分、生物が得られるエネルギーが減ってしまい、相当効率が悪いのです。そんな厳しい状況だからこそ、ここぞとばかりに、硫酸を還元する特殊能力を有するバクテリアが優占します。