全海洋の水温・塩分・栄養塩類のグリッドデータが公開されています。全海洋の各パラメタの平均的な値(気候値データ)です。そのデータをダウンロードして、以下のように、整理・考察をしました。世界中のどの教科書にも載っていないので、「研究」の解析に近いと言えると思います。このような公開データを使えば、誰もが研究をできるのです!
有機物分解で酸素が消費されるのと、栄養塩が再生するのは、おおよそ比例関係にあります。再び、レッドフィールド比を想定した有機物分解の反応式を記します。
(CH2O)106(NH3)16H3PO4 + 138O2
= 106CO2 + 16HNO3 + H3PO4 + 122H2O
海水中に
PO43- が
1mol再生するときには、
O2が
138mol消費されます。栄養塩再生と酸素消費の関係を調べるため、全海洋深層
(3000m)の
PO43- vs. AOU(酸素消費量)のプロットを下に示しました。
有機物分解が十分に進んだ北太平洋深層水中では、AOU増加とリン酸塩再生の比率(⊿AOU/⊿P)が、レッドフィールド比から想定される変化率(⊿AOU / ⊿PO43- = 138)に等しいです。
いっぽう、大西洋深層では⊿AOU/⊿P = 92です。おそらく、深層循環の初めには、P比率の高い有機物(脂質など)が豊富にあって、その分解が先に進むため、大西洋深層ではレッドフィールド比から想定されるよりも多くのPが海水中に再生するためと思われます。
Phosphate(リン酸塩) vs AOU(酸素消費量)プロットを詳しくみて、その特徴を考察しました。
考察①
北太平洋深層水での⊿AOU/⊿P=138のラインを延長したAOU = 0の交点のリン酸塩濃度(下図の太赤線枠:1.2 μmol/L)は何を意味するのでしょうか? 表層水は大気と平衡になっているから、AOU = 0です。したがって、交点のリン酸塩濃度は、おおよそ、水塊が表層にあったときのリン酸塩濃度の初期値とみなせます。つまり、深層循環の出発点である北大西洋北極域の冬季表層水のリン酸塩濃度(約1.2 μmol/L)と推定されます。実際、北大西洋高緯度(北極域)の深層水中濃度が1.0 μmol/Lなので、妥当な推定といえるでしょう。
考察② 南極海の深層水のプロット(下図の太赤点線)は回帰直線から外れたところに位置します。これは何故でしょうか? 南極域では海面冷却が著しく鉛直混合が盛んです。表層で酸素を豊富に含んだ水(酸素が消費されていない水)が深層まで運ばれるから、
AOUが低下するのでしょう。