生物生産によるNとPの取り込み比率(N/P = 16)が、海水中の栄養塩濃度の比率(NO3- / PO43- = 13~16)に近いのです。これは不思議なことなのです。海水のN/P 比が16だから、生命進化の過程で、生物の元素組成比が海水に近づいたのでしょうか? それとも、海水中の栄養塩成分が、生物に取り込まれて分解再生を繰り返すうちに、余剰分が海洋から取り除かれて、海水の元素組成比が生物に近づいたのでしょうか? この謎は、誰にも解かれていません。不思議なことは沢山あるのです。
下に、海洋を中心とした窒素とリンの物質循環のイメージを示します。海水中の栄養塩の窒素とリンの平均比率(N/P)は16です。生物体に含まれる平均比率も16です。海洋植物による栄養塩の取り込み比率は16に近いですが、生物体に取り込まれてからのNとPは、同じルートで全て海水に戻るわけではありません。生物に取り込まれるルートも若干異なります。
下の絵では、NとPで循環ルートが異なるところに、番号を振りました。
① 窒素固定:大気由来の窒素分子(N2)を取り込んで体内でアンモニアに同化する植物プランクトン(窒素固定生物)がいます。この作用により、海洋へNが供給されます。
② 硝酸還元(脱窒):還元的(無酸素)な堆積物では、窒素態栄養塩(硝酸イオン、亜硝酸イオン、アンモニア)を還元してN2にする、脱窒細菌がいます。この作用により、海洋からNを取り除かれます。
③ 鉱物吸着:有機物由来のリン酸塩、脊椎動物の骨由来のリン酸塩は、堆積物中で溶解すると、一部、鉱物成分に吸着します。その堆積物が埋没してゆけば、海洋からPが取り除かれます。
④ 陸上隔離:海鳥が魚を食べ、陸地に糞をしてリンが陸地に固定されれば、海洋からPが取り除かれます。
このように、ルートが複雑なので、海洋のN/Pがなぜ16になるのかが謎なのです。