植物プランクトンの増殖には、主要栄養塩(N, P, Si)の他に微量栄養素の鉄なども必要とします。ベーリング海のように主要栄養塩は豊富にあるのに、それに見合った生物生産量が得られない海域が存在します。そのような場所では、微量栄養素の鉄が不足して生産性を抑えられていることがあります(鉄制限)。
鉄制限 or 鉄未制限における珪藻類のSi取り込み比率の変化を調べた研究(Takeda S, Nature, 1998)の紹介です。
鉄が十分にある状況(鉄未制限)で珪藻類が取り込む栄養塩比率は以下(A)でした。
珪藻類の栄養塩取り込み比率 N:P:Si = 12 : 1 : 14 (A)
鉄が不足した状況(鉄制限)での栄養塩取り込み比率は以下(B)でした。
珪藻類の栄養塩取り込み比率 N:P:Si = 12 : 1 : 31 (B)
鉄が十分にあり、増殖に適した状況では、Si / P 取り込み比率が14、鉄が不足して増殖が制限された状態ではSi / P 取り込み比率が31と、Siをより多く取り込むことがわかりました。
鉄が不足すると珪藻類は珪酸殻を分厚くしSi取り込み比率が高くなります。鉄と栄養塩類(N,P)が十分にあると、珪酸殻を分厚くする間もなく次々と分裂して増殖するためSi取り込み比率が低くなります。なお、珪藻類によるN/P比が12と、レッドフィールド比(16)に比べるとかなり低い状態です。これは栄養状態の良い珪藻類は体内に脂質(高いP比率)を多く貯め込むためと考えられます。
栄養状態が良いとき、悪いときの珪藻殻の厚さの違いを説明するイメージを下に描きました。栄養状態がよければ、次々と細胞分裂をしてシリカ殻が薄くなり、Si取り込み比率が小さくなります。栄養状態が悪ければ細胞分裂ができません。そんなときはシリカの鎧を分厚くし身を守るのに備えておくため、Si取り込み比率が大きくなると思われます。(Pondaven et al., Protist, (2007)の解釈による)