北部ベーリング海や北極チャクチ海では、冬場は海氷に覆われています。春に海氷が融解すると、光環境が急速に改善して、豊富にある栄養塩を使って珪藻の春季ブルームが起きます。氷縁で起こるブルームのことを、氷縁ブルームともいいます。このブルームにより多量の有機物粒子が陸棚の浅い海底面に堆積します。
北部ベーリング海の陸棚斜面では、中層の水が継続的に表層にもたらされるので、植物プランクトンのブルームが春以降も続くことが知られています。有機物生産が非常に活発になっています。そのような海底面では有機物分解に伴う酸素消費が大きくなります。海底堆積物中で酸素濃度が低下して、酸素濃度がゼロに近づくと、酸素の代わりに硝酸イオンを酸化剤とする微生物(硝酸還元菌)の活性が高まります。堆積物中で硝酸呼吸(硝酸還元)が起こると、海水中の硝酸が失われて、窒素分子(N2)が発生します。基礎生産では、リンと窒素が平均16:1 の比率で失われますが、硝酸還元が起こると、リンは減らずに、窒素(硝酸)が失われてゆきます。そのような影響を受けた表層海水では、リン酸やケイ酸は余っているのに、硝酸が枯渇して基礎生産が抑制されることが起こります。北部ベーリング海陸棚から、ベーリング海峡を通って、チャクチ海に海水が流れています。チャクチ海では、夏場に硝酸が不足して、基礎生産が抑制されていると考えられています。