密度躍層(750 m)と深層(3000 m)の栄養塩主要3成分の全球分布を並べて表示しました。左が密度躍層、右が深層で、上から順に、硝酸(Nitrate)、リン酸(Phosphate)、ケイ酸(Silicate)です。濃度の変化がわかるように、濃度値をマップに書き加えました。あらためて、3成分見比べてみてください。
先のページでも説明しましたが、
パッと見の共通点
① 各栄養塩成分ともに、北大西洋深層(3000m)に比べて、北太平洋深層が高濃度。
② 各栄養塩成分ともに、水深750mでは、北太平洋と南極海が高濃度
凡人では、パッと見ではわからない相違点
③ 北大西洋深層と北太平洋深層の濃度比率がケイ酸だけ違います。
硝酸とリン酸 :【北大西洋深層濃度】×2=【北太平洋深層】
ケイ酸 :【北大西洋深層濃度】×8=【北太平洋深層】
(ケイ酸は、北大西洋深層の濃度に比べて、北太平洋深層の方が著しく高くなっています)
これらの相違を特徴づけているのが、海水中でシリカ殻(Opal: SiO2)から珪酸(Si(OH)4)が溶け出す速度がかなり遅いことにあります。PやNは有機物の軟組織に含まれるので、粒子状有機物の沈降途中で速やかに分解・再生します。そのため、PO43-やNO3-については、深層水より上の密度躍層で濃度が急に上昇します。それに対して、シリカ殻(Opal)は沈降途中ではあまり分解しません。、深層水中もしくは海底に堆積してから、珪酸殻(SiO2)が徐々に分解して、深層水中にSi(OH)4が蓄積します。その結果、Si(OH)4の濃度極大は深層~底層に現れます。また、北大西洋深層に比べて、北太平洋深層水中のSi(OH)4濃度がかなり高くなるのが特徴です。
以下、私がパッと見で発見した相違点です。
図を眺めて、教科書に書いてある特徴を覚えるだけでなく、皆さんも特徴を見出して、その原因を独自に考察すると楽しいですよ。パッと見の特徴から、”何倍”というように、数値で表現するとよいでしょう。その数が何を意味するのか?考察が広がります。
④ 深層と密度躍層の濃度の違い(南大西洋と南太平洋)
硝酸とリン酸 :【密度躍層】×1.25=【深層】
ケイ酸 :【密度躍層】×2~5=【深層】
(ケイ酸は、密度躍層の濃度に比べて、深層の方が2倍以上も高いです)
大西洋深層から南大洋深層でSi(OH)4濃度が急に上昇する理由について考察
大西洋から南大洋に入ると、深層でSi(OH)4濃度が急に上昇しています(60→120 μmol/L)。これは、大西洋の水が南大洋に入ると、珪酸殻(Opal)の分解速度が急に上がるわけではない。南大洋では、南極深層還流がグルグル廻っていて、相当時間が経過しているので、珪酸殻が徐々に分解しながらSi(OH)4を蓄積した結果と考えられます。そのため北大西洋深層水と南極深層還流が合流したところで、急に濃度が上昇すると考えました。
なお、南極海(南大洋)では、水深750mでも、水深3000mでも、
Si(OH)4濃度は同じくらい高い。激しい鉛直対流で、深層に溜まっている
Si(OH)4が
750m付近まで供給された結果と思われます。