どのような海域で生物生産性が高いのでしょうか。海洋表面のクロロフィル-a濃度の衛星画像(下図)をみてください。外洋では亜寒帯と赤道域でクロロフィル濃度が高く、亜熱帯では低いです。また、沿岸域では濃度が極めて高いというのが大まかな傾向です。(沿岸で極めて高い濃度が表示されているのは、河川由来の有色溶存有機物の影響による誤差も含まれます)
衛星画像によるクロロフィル-a濃度のグローバル分布(MODIS/Aqua, 2002年7月から2012年12月までの平均値)クロロフィル-a画像はhttp://oceancolor.gsfc.nasa.gov/より入手
次に、海洋表面のリン酸塩濃度の分布図を見てください。リン酸塩が、海洋の栄養成分の分布を代表すると考えてください。
海洋表面のリン酸塩分布(下図)とクロロフィル分布(上図)がよく似ています。北太平洋亜寒帯や南極海など、寒い海では冬季の鉛直混合が活発で深層からの栄養塩供給が豊富です。それに対して、亜熱帯では冬季鉛直混合はそれほどでもなく栄養塩供給が少ないです。赤道域では、赤道湧昇があるため深層からの栄養塩供給があります。このような栄養塩供給の分布に対応して海表面のクロロフィル濃度が高くなります。
海洋では、表層への栄養塩の供給量が海洋基礎生産を決めている(制限している)と考えられています。
海洋表面におけるリン酸塩(umol/L)の分布.World Ocean Atlas, (2013) による気候値データ(1955-2012平均) NOAA, National Oceanographic Data Center(NODC) http://www.nodc.noaa.gov/OC5/woa13f/index.html
全海洋のクロロフィル分布(上図)では判別できませんが、亜寒帯と亜熱帯の移行領域(混合域)は、亜表層の水を湧昇させる渦が発生するのでクロロフィル濃度の高いエリアが筋状に表れます(下絵を参照)。沿岸域では、河川からの栄養塩流入、海底堆積物からの供給もあるので、基礎生産が活発になります
亜寒帯域と亜熱帯域に挟まれた場所を、「移行領域」とか「混合水域」と呼びます。両域の海流から派生した渦がせめぎあうような場所です。日本周辺では、東北沖太平洋になります。そのエリアの衛星クロロフィル画像を拡大しました(下図)。クロロフィルが低濃度(青色表示)の亜熱帯の北側にあり、移行領域ではクロロフィル濃度が高くなっているのがわかります。このエリアは、表層への栄養塩供給が多いのです。下の絵を使って再び説明します。
下の絵は北西太平洋を想定して、「寒流」と記したのが亜寒帯域を流れる親潮、「暖流」と記したのが黒潮です。亜寒帯域の冬は鉛直混合が活発なので、深いところにある栄養塩豊富な水が表層に供給されています。春になると植物プランクトンのブルームが起こります。亜熱帯域でも、冬場の鉛直混合で栄養塩が表層にもたらされますが、顕著な春季ブルームは起こしません。(亜熱帯では冬場に基礎生産が上がります) 両海域の間に位置する混合水域では、冬場の鉛直混合で栄養塩が供給されるのと、寒流と暖流から派生する渦によって、下層の水が表層へもたらされて生物生産が活発になります。