生物が必要としているのに不足しがちな成分を栄養成分と呼びます。
下に、陸と海の基礎生産を制限する因子の違いを説明する絵を示します。
陸上植生では、葉っぱと土壌の間で栄養素が循環しやすい環境となっているため、陸上植物は比較的安定して栄養成分を確保できます。そのため、陸上植物の成長を制限する主要因は水の供給量になります。いっぽう海洋では、光合成により生産された有機物は表層(基礎生産の場)より深い方へ簡単に運び去られてしまいます。その結果、表層で栄養塩が枯渇しやすく、栄養成分の不足により基礎生産が制限される状況が頻発します。
もう少し詳しく説明します。
有機物の主成分には炭素(C)、酸素(O)、水素(H)、第二成分として硫黄(S)やカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、窒素(N)、リン(P)、ケイ素(Si)、カリウム(K)、微量成分として鉄(Fe)やマンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などが加わわります。海洋生物はこれらの物質を使って生命を維持し、いずれ死亡・排泄されるなどして無機化への道をたどります。無機化した成分は再び生物に利用されます。
上に挙げた第二成分のうち、SやMg, Ca, Kは海水中に豊富に含まれるので、これらの成分が不足して生命の維持(生態系全体でみれば基礎生産)に対して制限因子になることはありません。海洋化学での興味は、海洋生物が必要としているのに海水中で不足しがちな成分、N, P, Si, Fe, Mn,,,などです。これら、生物が必要としているのに不足しがちな成分を栄養成分と呼びます。
”塩類”として存在する栄養成分、NO3-、PO43-、Si(OH)4-など、を”栄養塩”と呼びます。鉄については、様々な化学形態をとるので”栄養素”というのが正しいです。なお、Siは珪藻類など限られたプランクトン種(珪藻類)が殻を形成するのに必要な成分なので、必ずしも全てのプランクトンの生長に対して制限因子になるわけではありません。
(栄養成分、栄養塩、栄養素、と言葉を使い分けるべきですが、本コースでも使い分けられていません。すみません)