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    • 亜表層概要:亜表層は、表層混合層の直下にあり、海面とは直接接しないが、冬季混合、沈み込み、等密度面に沿う移流、渦混合によって表層とつながっている層である。その中には、冬季混合や表層冷却の履歴を持つ特徴的な水塊(モード水)・水温構造(水温極小など)が見られる。下に、北太平洋の南北鉛直断面を描くマップと年平均の断面図を示す。


      北太平洋の亜熱帯モード水:亜熱帯モード水(密度範囲:25.0 - 25.6 σθ)は、黒潮続流の南側(北緯35度以南)で冬季に冷却された混合層下部(50~300 m)の水が、春以降に混合層が浅くなって取り残されたものである。モード水形成域を挟んだ南北(30-40N)の0-300 mの密度分布(冬:1-3月平均)を次ページ最上段に示す。年平均では水深300 mにある密度25.5σθの水が、冬季は北緯35度で鉛直一様に表面に露出していることがわかる。これが黒潮続流南側(50~300 m)から、等密度面に沿って亜熱帯循環域に移流すると、モード水上部の深さが増す(50 ⇒ 150 m)。元々、冬季混合で鉛直的に混ざっていた水塊なので、移動した先でも、ある程度鉛直的に均質な特徴を保っている。そのため、固有水(モード水)と呼ばれている。

      北太平洋における、年平均の密度アノマリ(上)、水温(中)、塩分(下)の南北鉛直断面図.亜熱帯モード水の範囲を白黒破線、北太平洋中層水(NPIW)を太白線枠内で表した。冬(1-3月平均)の30-40N, 0-300 m範囲の密度アノマリ拡大図を最上段。

    • 亜熱帯モード水と後述する北太平洋中層水の水平的な広がりを、下の水平分布図で示す。亜熱帯モード水は、亜熱帯循環域の亜表層(下図の紫色範囲)を移動しつつ、黒潮再循環、黒潮本流、黒潮続流域へ再び組み込まれる(Hanawa and Talley, 2001)。この一巡する時間はおよそ10~20年とされている。



      北太平洋の亜熱帯モード水、北回帰線水、中層水の水平分布(気象庁HP)

    • 亜寒帯循環域でも、冬季に冷却・混合された低温水(0 - 200 m)が、春から夏に表層だけ暖められた後も表層下(亜表層)に残り、水温極小層(100-200 m, 3℃未満)として現れる。これを亜寒帯中冷水と呼ぶ。

    • 中層概要:黒潮と親潮の移行領域(北緯35~45度)から亜熱帯循環域に、北太平洋中層水(North Pacific Intermediate Water: NPIW)がある。実際には、NPIWの影響は300mから見られるところもあるが、亜表層水の深度帯と区別するため、中層の深度を便宜的に500-1000mとする。亜寒帯域にも、亜寒帯中層水(500-1000m)がある。


      北太平洋(亜熱帯)中層水(NPIW):亜熱帯循環域の中層には、300-800m付近の密度帯26.7 - 26.8 σθに塩分極小が見られる。これを北太平洋中層水(NPIW:North Pacific Intermediate Water)と呼ぶ。亜寒帯表層や亜表層の低塩分水の影響を受けた水が、亜熱帯の中層に潜り込んでいるのである。2ページ前の図にNPIWの水深帯を白太線で囲った。NPIWの形成では、まず、黒潮続流と親潮前線の間の混合水域(北緯35-45度)で、低塩分の親潮系水と高塩分の黒潮系水が混ざりながら(およそ半々の混合比)、冬季に冷やされて高密度化する。それが亜熱帯循環の亜表層直下に潜り込んだものである(Talley, 1995;Yasuda, 1997)。NPIWの形成にはオホーツク海由来の中層水の影響も大事とされている(後で説明)。なお、深層には北大西洋由来の低温・高塩分の高密度水があるので、低温・低塩分のNPIWが深層に貫入することはなく、中層まで沈むのである(下図参照)。。親潮水の影響を受けているので、亜熱帯循環で中層に顕著な塩分極小を示すのが特徴である。NPIWは形成後、等密度面移流により亜熱帯循環全域の中層へ広がる。CFC化学トレーサー研究から、NPIWが亜熱帯循環の南側縁辺(北緯10度)まで移動するのが約20–45年と示されている(Watanabe et al., 1994)。

      Watanabe, Y. W., Harada, K., and Ishikawa, K. (1994).
      Chlorofluorocarbons in the central North Pacific and southward spreading time of North Pacific Intermediate Water. Journal of Geophysical Research: Oceans, 99(C12), 25195–25213.
      DOI: 10.1029/94JC01884

    • 北太平洋の深層から中層への水循環について、Nishioka et al (2020)のFig4(下図)を参考にして説明する。北西太平洋の亜寒帯域は、栄養塩豊富な深層水が浮上するエリアである。特に、アリューシャン列島の海峡で発生する潮汐流の乱流により中層に高栄養塩の水塊が形成される。これを、亜寒帯中層栄養塩プール(SINP)と呼ぶ。この栄養塩プールが、北太平洋亜寒帯域の高い生物生産性が維持されている(図A参照)。


      図  北太平洋亜寒帯域における高基礎生産性を維持する栄養塩循環のイメージ
       Upper (U) and Lower (L) -North Pacific Intermediate Water (NPIW), Subarctic Intermediate Nutrient Pool (SINP) (Nishioka et al., PNAS, 2020: doi: 10.1073/pnas.2000658117, Fig4)

    • しかし、深層水由来の栄養塩や鉄だけでは、北西太平洋の亜寒帯域や混合域の高い生産性を維持できないのでは?と疑問が投げかけられていた。オホーツク海を含む海域全体で詳細な観測を行った結果、北部オホーツク海陸棚斜面を流れ落ちる水が、高濃度の鉄(必須微量栄養素)を含みながら太平洋へ流出することが明らかになった(図B)。つまり、オホーツク海起源の鉄が供給されることで、アリューシャン列島から運ばれてくる高濃度栄養塩(窒素やリン)を最大限利用して(鉄制限を緩和して)、高い生産性が維持されている。


      オホーツク海陸棚斜面からの鉄分輸送と北西太平洋で高基礎生産性が維持されるメカニズムのイメージ.赤い太い矢印がオホーツク海起源の水に含まれる高濃度鉄を表す。(Nishioka et al.2020)つづき

    • そのオホーツク海起源水を含む中層水は、混合域で表層に鉄をもたらしつつ、北太平洋中層水として、太平洋外洋へ広く運ばれることがわかった(図C)。図A~Cでは、赤い太い矢印がオホーツク海起源の水に含まれる高濃度鉄を表している。なお、オホーツク海起源水は上部中層(U-NPIW)を形成するので、生物生産の場である表層に鉄分を供給する役割を果たしている。


      (Nishioka et al.2020)つづき)

    • 海洋化学コースもくじ:https://repun-app.fish.hokudai.ac.jp/course/view.php?id=457