①
概要
今回用いるのは、卵膜を除去できるキンギョとゼブラフィッシュの卵である。これらの卵は、卵細胞質の中に卵黄球が浮いた状態にあるため、発生の早い時期であるなら、卵の何処に溶液を注入しても、胚盤の細胞質の中に入れることが可能である。しかしながら、卵膜を除去できない卵では、卵門から針先を挿入したりするなどの新たな技術が必要になる。また、卵黄球が一つで、その周囲に薄い細胞質があるような構造の卵では、薄い細胞質のみに溶液を注入しなければならない場合がある。この場合は、繊細な注入をしなければいけない。
卵内へ注入する溶液には、カルシウムイオンを含めない。カルシウムの流入により、細胞質の収縮等が起こる場合があるからである。使われる溶液の種類として、0.2M KCLやPBS等が使われる。
②
FITC-dextran, biotin-dextran溶液(細胞標識)
標識細胞を移植し、外部からその追跡を行う場合は5% FITC-dextranを注射する。移植後、組織学的に細胞を追跡する場合はFITC-dextran溶液にさらに5% biotin-dextran-fixable溶液を注射する。移植胚をブアン氏液等で固定したとき、dextranについたリジンと細胞内のタンパク質が架橋される。その細胞の中にbiotinが固定されるため、これと反応するアビチンを使って、移植した細胞を発色させ位置を特定できる。これらの溶液は、粘度が高いので狭窄部が広い針を用いた方がよい。
③
mRNA溶液(PGC蛍光付与)
PGCに蛍光を付与させるためにmRNA溶液を注射する。この溶液は透明であるため、注射をする際に入った量を確認することが難しい。そのため、GFP蛍光をつけたmRNAを注入する場合は、溶液にローダミンを少し混合させると良い。dsRed蛍光の場合にはFITCを混合するが、蛍光が強いので少なめにした方がよい。
④
溶液の注入の手順
1.
注入する溶液の入ったテストチューブを遠心し、ゴミを下に落とす。
2.
ゲローダーチップをつけたピペットマンp20で約3 μℓの溶液をとる。このとき、溶液の上部から採取すること。
3.
実体顕微鏡下で、狭窄部のついたガラス針の先端部をシャーレの側面に当て、先端を少しだけ割る。
4.
このガラス針の後ろからゲローダーチップを差し込み溶液を入れる。このとき、ゲローダーチップの先端に残った液を入れる際には、チップの先を針の中に入った液の手前側まで引き寄せてから入れる。
5.
液を入れた針をインジェクターのホルダーの先端に装着する。このとき、ホルダーの先端のプラスチック部分を緩めすぎないこと。緩めすぎると、この部分を金属部に締め付けた時に針に入った液が先端まで行き過ぎることがある。先端のプラスチック部分をきちんと締め付ける。
6.
インジェクター本体のノブをゆっくりと回して、溶液を先端まで移動させる。
7.
マニピュレーターにホルダーをつける。
8.
マニピュレーターを支えているネジを少し緩めて、マニピュレーターを回転させ、ガラス針の先端を卵の入ったシャーレの液につける。
9.
実体顕微鏡のピントを卵に合わせる。
10. マニピュレーターのxyz軸を動かすノブを回転させて、針の先端を卵につける。
11. 針の先端から溶液が出ているかを確認する。多量に出ていたら、インジェクターのノブをほんの少し反時計回りに回転させて量を少なくする。出ていなかったら、ノブを時計回りに回転させ、少しだけ流れ出るようにする。
12. x軸のノブを動かし針を卵に刺す。刺さりにくかったら、ノブを少しだけ指でたたいて針先を卵内部へ押し込む。
13. 針の先端の溶液の量が、卵の直径の約1/10位まで溶液を入れる。
14. x軸のノブを動かし、針を出す。
15. シャーレを動かして、針先を別の卵へ移動する。12-14を繰り返して溶液を注入する。
16. 卵の方向を変える時は、操作針を用いて卵を移動させる。