ウシやヒツジなどでは、体細胞の核を卵細胞へ移植して個体を作れるようになってきました。このような手法は核移植と呼ばれています。哺乳類では産子数が少ないため、遺伝的に均質な個体群を得るのが困難です。そこで、肉が美味しい、とか牛乳がたくさん取れるとかいった人間に都合の良い形質を維持するために、その個体の核を移植したクローン個体を作っているのです。しかし、魚では上述した染色体操作を行うとクローン集団を誘起できます。そこで核移植はそれほど重要視されてきませんでした。
しかし、病気で大量に死んだ後に生き残った個体は耐病性の遺伝子を持った個体かもしれません。これから個体を再生したり系統を樹立したりするのは、育種の重要な仕事です。そのためには生き残った個体から配偶子を作り出さなければなりません。病気で生き残った個体から配偶子を取るのは困難と言わざるを得ません。そこで、この個体の体細胞から生殖細胞系列の最初の段階、すなわちPGCを作り出せないでしょうか。
魚類では一つの卵に沢山の精子を顕微注入すると、低率ですが胚発生が起こります。この胚から
PGCを取り出せないでしょうか。図
13は未受精卵に沢山の精子を顕微注入した卵から発生してきた胚の外部形態を示しています。この胚にも生殖細胞質を持つ割球が存在することが明らかになってきました。そこで、そのような割球を取り出し、生殖系列キメラを誘導する研究を行っています。