次に,稚魚から4 年後に成魚となって陸奥湾に回帰するまでの生残率SPRを計算すると,1989 年から東日本大震災が起きた2011 年までは徐々に低下し,自然死亡率もしくは漁獲死亡率が徐々に上昇していたことがわかる(図6.10 下側)。しかし2012 年以降,急速に高生残率に変化していたことから,震災で漁獲圧が低下して,多くの成魚が陸奥湾に回帰してきたのだろう。このSPR を,産卵回遊時の湾口部底層平均水温や,12°C 以下に低下する日付,漁船の燃料費の指標になるWTI 原油価格など,さまざまな要因と比較してみたが,いずれも有意な相関はなかった(危険率29% 以上)。
以上のように,陸奥湾のマダラは高水温年が続くと資源が減りやすく,2011年以前は漁獲圧が過剰だったことが考えられる。水温などの自然要因を人間が変化させることはできない。また,マダラの魚価を考えたら,種苗放流は採算がとれないだろう。もし2016 年以降のSPR が低下してきたら,工夫してマダラに対する漁獲圧を減らすことが必要だ。それが漁獲低迷期へ逆戻りしないためのいちばん現実的な方法だろう。
図6.10 陸奥湾産マダラの卵期から着底稚魚期までの生存率RPS(上側)と,稚魚期から4歳までの生存率SPR(下側)の経年変化。成魚は全部4歳と仮定。1992, 1998, 2020年はデータ欠損。