陸奥湾では,1~3 月に湾口部の海底で孵化した卵黄のう仔魚は,海水よりも比重が軽くなると浮上を開始し,津軽暖流水で湾内に分散する(図6.5)。4月に全長25mm を超えて稚魚になると,湾口部では水深15m 前後に,湾の奥部では40m 前後の中層に多く生息する。これは,この時期の陸奥湾では湾の奥ほど,深い層にかいあし類とその餌である植物プランクトンが高密度に生息するためだ。
図6.5 陸奥湾のマダラ卵・仔魚の分布と移動の模式図。左上の図中の赤い線は右側の図の断面の位置を示している。*10個体/リットル以上(マダラ仔魚が捕食する餌体幅が0.0675~0.195mmの範囲のノープリウスのみ),**300個体/㎥以上(4月)、30個体/㎥以上(6月)。Takatsu et al. (2001,2002)を基に作成。
5 月下旬以降,全長50mm くらいで着底するが,底生のヨコエビ亜目やエビ・カニ類,魚類を捕食するには,70mm になるまで待たねばならない。しかし,シュードカラヌスなどの冷水性のかいあし類は,水温が高い浅い場所では減少してくる。6 月以降,マダラ稚魚は,12°Cの高水温を避けるように,いそいそと湾外に移動しはじめる。長距離を水平移動しなくてはならないし,底生のヨコエビ亜目は湾口部と,マダラ稚魚が生息できない水温12°C以上の水深30m の浅い海域などの砂礫底にしか生息しないから,お腹が空いて痩せやすい時期だ。陸奥湾の海底水温は秋には17°Cを超えるから,湾内で越冬できる稚魚はいない。