章节大纲

    •  1~3 月に湾口部の海底で孵化した直後の仔魚は全長4mm 程度で,口が開いておらず,卵黄のうがあり,しばらくはこの卵黄の栄養で生活する(図6.2)。卵黄をすっかり使い果たした仔魚は,かいあし類ノープリウス幼生を捕食し,全長7mm より大型になると,冷水性のかいあし類コペポダイト(シュードカラヌス・ニューマニPseudocalanus newmani)に転換する。このシュードカラヌスという,舌を噛みそうな面倒くさい名前のかいあし類は,冬季から春季の北海道周辺でいちばん多い動物プランクトンで,さまざまな仔稚魚にとって重要な餌だ。植物プランクトンを食べて育ち,仔稚魚に食べられるので,食物連鎖のなかで栄養・エネルギーの橋渡し役になっている。この体長0.8~1.5mmの小さな餌がいなければ北海道の水産業は成り立たなくなると言っても過言ではない。それくらい重要な餌なのだ。


      図6.2 マダラ仔稚魚の成長にともなうエサの変化。かいあし類を主食。矢印の太さは個体数の割合。餌のかいあし類の体色はフォルマリン固定後の色で,生鮮時はもっと透明。Takatsu et al. (1995,2002),髙津(2005)を基に作成。

    •  マダラは全長25mm ですべての鰭(ひれ)が成魚と同じ形になり,名前が仔魚から稚魚に変わる。餌は,もっと大型なかいあし類も捕食できるようになるが,浮遊性の巻き貝やエビ・カニ類のゾエア幼生,カニ・アナジャコ・ヤドカリのメガロパ幼生などの,さらに大きな餌に出会うと,これらを優先して捕食する(図6.3)。その結果,6 月にかいあし類よりも大型の餌を多く捕食していた1995 年や1997 年には,4 月から6 月の間の成長速度はそれぞれ0.89mm/日,0.84mm/日を示し,他の年よりも高成長だった(図6.4)。同じ量の餌を食べるにしても,小さい餌を多く食べるよりも,大きい餌を少なく食べるほうが高成長で,太りやすい。たとえて言うなら,お茶碗に盛り付けたご飯は掻き込めるが,部屋いっぱいに一粒ずつ5 cm 間隔で並べられていたら,食べるのに時間がかかるし,何よりも面倒くさい。だから,体の大きさに合った大きさで,少ない回数で楽に飲み込める餌が,高成長につながる効率の良い餌だ。

       さらに,全長70mm を超えると海底のヨコエビ亜目やエビ類,小型魚類も捕食するようになり,下腹が出っ張って,マダラらしいメタボ体形に変わる。この時期以降は成魚になるまで,魚類やエビ・カニ類などが主食のままだが,アラスカなどでは潜水中の鳥類を捕食することもある。


      図6.3 6月陸奥湾,マダラ着底稚魚の胃内容物中の餌生物組成(重量割合)の地点別,採集年別変化。は解析した稚魚の個体数。髙津(2005)を基に作成。


      図6.4 マダラ仔稚魚の4月と6月の平均全長と,その差から推定した日間成長率の年変化。エラーバーは全長範囲(最大全長~最小全長)。Takatsu et al. (2002)のデータから作図・推定。