토픽 개요
発表論文
掲載誌:Environmental Pollution(環境科学の専門誌)
タイトル:Trophic transfer of microplastics from mysids to fish greatly exceeds direct ingestionfrom the water column
(マイクロプラスチックのアミ類から魚類への移行量は水中からの直接摂取量を大きく上回る)著者:
長谷川貴章(北海道大学大学院環境科学院)
仲岡雅裕(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)
URL: 10.1016/j.envpol.2021.116468
論文公開日:2021年1月9日(オンライン公開)
ポイント
・肉食性魚類が大量のマイクロプラスチックを餌生物から取り込むことを発見。
・餌生物が細分化することにより,魚類に蓄積するマイクロプラスチックも小型化。
・マイクロプラスチックが食物連鎖を通じて海洋生態系に深刻な影響を与える可能性を指摘。
概要
北海道大学大学院環境科学院修士課程の長谷川貴章氏と同北方生物圏フィールド科学センターの仲岡雅裕教授は,魚類が海水中から取り込むマイクロプラスチックの量について,水中から直接摂取するよりも,餌生物を介して摂取する方がはるかに多いことを明らかにしました。
プラスチックごみによる海洋汚染が世界中で進む中,特にマイクロプラスチックが海洋生物へ与える影響が懸念されています。魚類はマイクロプラスチックを海水中から直接取り込むだけでなく,餌を食べることで間接的に取り込みますが,2 つの経路の相対的な重要性はこれまで不明でした。そこで本研究では,肉食性魚類シモフリカジカとその餌生物であるイサザアミ類を用いて,魚類のマイクロプラスチック摂取における餌生物を介した経路の重要性について検証しました。
その結果,シモフリカジカはマイクロプラスチックを含んだイサザアミ類の摂食により,水中から直接摂取するよりも3~11 倍の量のマイクロプラスチックを取り込んでいることが判明しました。また,マイクロプラスチックがアミに取り込まれる過程で細粒化されるため,餌生物を介してカジカ体内に取り込まれるマイクロプラスチックは直接取り込むものより粒径が小さくなっていました。マイクロプラスチックは細粒化されると体内組織に移行して悪影響を与えることが指摘されています。また,プラスチックは有害化学物質を含んでおり,これも食物連鎖を通じて濃縮することにより高次消費者へ影響を与える可能性があります。それらの影響に関する研究の進展が期待されます。
なお本研究成果は,2021 年1 月9 日(土)公開の𝘌𝘯𝘷𝘪𝘳𝘰𝘯𝘮𝘦𝘯𝘵𝘢𝘭 𝘗𝘰𝘭𝘭𝘶𝘵𝘪𝘰𝘯 誌に掲載されました。マイクロプラスチック(MPs)の取り込み実験のデザイン(左)と実験結果。シモフリカジカは餌生物であるイサザアミを介してより多数のマイクロプラスチックを取り込んだ。
背景
プラスチックごみによる海洋汚染が世界中で進んでおり,2050 年には世界の海のプラスチックごみの量は魚よりも多くなると予想されています。特に,粒径が5 mm 以下の「マイクロプラスチック」は,あらゆる生物に取り込まれていることが報告されており,生態系への影響が懸念されています。海洋動物はマイクロプラスチックを海水中から直接取り込むだけでなく,マイクロプラスチックを体内にもつ小型の餌生物を食べることにより取り込むことも知られていますが,この2つの経路の相対的な重要性を調べた研究はこれまでありませんでした。また甲殻類などの一部の海洋生物は摂食・消化を通じてマイクロプラスチックを破砕するため,餌生物を通じて取り込まれたマイクロプラスチックは水中から直接取り込むものよりさらに小型になっていることが予想されます。
そこで本研究では,肉食性魚類シモフリカジカ(Myoxocephalus brandti)とその餌生物である小型甲殻類イサザアミ類(Neomysis spp.)を用いて,(1)魚類のマイクロプラスチック摂取における餌生物を介した間接経路の重要性,(2)間接経路によるマイクロプラスチックの粒径の変化について検証しました(図1)。図1.実験に利用したシモフリカジカ(左)とイサザアミ類(右)。体長はシモフリカジカが8cm,アミが1 cm 程度。
研究手法
北海道東部の厚岸湖で採取したイサザアミ類(以下,アミ)とシモフリカジカ(以下,カジカ)を用いて,北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所にて飼育実験を行いました。マイクロプラスチックは,粒径30 μm の蛍光ポリエチレン粒子を用いました。水中からの直接経路によるマイクロプラスチックの摂取は,マイクロプラスチックを2 つの異なる濃度(200,2000 μg/L)で海水中に入れた水槽でカジカを飼育することで調べました(水中区)。一方,餌生物を介した間接経路によるマイクロプラスチックの摂取は,同じ濃度条件でマイクロプラスチックに曝したアミ(図2)を,マイクロプラスチックの入っていない水槽内のカジカへ与えることで調査しました(アミ区)。それぞれの処理区で,カジカの消化管内に蓄積したマイクロプラスチックの量と粒径を定量し,処理区間で比較しました。
図2.マイクロプラスチック(蛍光ビーズ)を取り込んだアミ。蛍光ビーズが取り込まれた胃の部分を白丸で示す。
研究成果
アミ区のカジカは水中区のカジカよりも個数で8~11 倍,質量で3~5 倍のマイクロプラスチックを取り込んでいました。マイクロプラスチックはアミに取り込まれる過程で細粒化され,その結果,アミ区のカジカが取り込むマイクロプラスチックは水中区より粒径が小さくなっていました。これより,魚類のマイクロプラスチック摂取において,水中からの直接経路よりも,餌生物を介した間接経路の方がより重要であることが明らかになりました。
今後への期待
本研究により,マイクロプラスチックは食物連鎖を通じて,海洋生態系のより高次に位置する動物に移行することが解明されました。マイクロプラスチックは動物の摂食や消化などの活動に負の効果を与えるばかりではなく,より細粒化されると消化管から体内組織に移行し悪影響を与えることも指摘されています。また,プラスチックは多様な有害化学物質*1 を含んでおり,これも食物連鎖を通じて濃縮することにより高次消費者へ影響を与える可能性も示唆されています。現在,有害化学物質を含むマイクロプラスチックを取り込んだアミをカジカに摂食させることにより,カジカ体内の化学物質各種の蓄積状況を調べる実験を実施中で,これにより食物連鎖を通じたマイクロプラスチックの海洋生態系への影響の全体像を明らかにしていきたいと考えています。
*1 有害化学物質 … 石油製品であるプラスチックは化学的親和性からPCB やPAH に代表されるPOPs(残留性有機汚染物質)を吸着するとともに,臭素系難燃剤や紫外線吸収剤などの添加剤と呼ばれる多様な化学物質を含んでいる。人間を含めた動物では,これらの化学物質が体内に高濃度に蓄積すると様々な悪影響を生ずることが知られている。