セクションアウトライン

    • 教育プログラム企画推進室・バランスドオーシャン運用部・安です

    • ※安先生は2023年3月に北海道大学を退職されました。


    • 本研究は以下の論文に発表されました。

    • 近年、生物調査で活用されている環境DNAは、生物を直接捕らなくてもいいというメリットから、特に希少種や絶滅危惧種の調査に有効です。

      国際自然保護連合から2014年に絶滅危惧種として登録されたウナギの調査にも環境DNAが使われつつありますが、実用化のためには色々きをつけなければなりません。

      ウナギは長くて複雑な生活史を持つ回遊魚であり、生育段階による体調・体重のバリエーションが大きい魚です。

    • Takeuchi et al., 2019では、ウナギの生育段階が上がるほど環境DNA濃度が上昇する一方、体重比濃度は減少するという報告がありました。

    • また、ウナギは同じ生育段階でも個体差が大きく、冬に水温が下がると活動量が減り、餌を食べないことが知られているので、それらも環境DNA濃度に関係すると考えられます。


      本研究では、同じ個体を用いて、異なる飼育条件での環境DNAの変動を調べました。

    • 3尾のウナギを40Lの水槽に収容し、水質管理および水の循環のためエアレーションを入れました。

      (環境DNAの変動が個体差ではなく、飼育条件によるものを確かめるため、飼育期間中ずっと同一個体を用いました)


      ウナギはまず1ヶ月間絶食させて、設定温度15℃(測定水温 16-17℃)の水槽で馴致させました。

      → 絶食・低水温 (Non-Feeding & Low temperature : NFL)

      採水後、絶食のまま、水温を25℃に設定し(測定水温 22-23℃)、2週間馴致させました。

      → 絶食・高水温 (Non-Feeding & High temperature : NFH)

      採水後、、給餌を始め、水温は低水温に戻して(測定水温 16-17℃)、2週間馴致させました。

      給餌・低水温 (Feeding & Low temperature : FL)

      採水後、給餌のまま、水温を上げて(測定水温 22-23℃)、2週間馴致させました。

      → 給餌・高水温 (Feeding & High temperature : FH)


    • 採水は2週間の馴致後に実施され、採水して水は現場ですぐ濾過しました。

      (実験期間中、給餌は週2回(火、金)、水槽の掃除は給餌有無と関係なく週2回(水、土)実施し、採水がある日(火)は採水の後に給餌をしました)


      サンプルは、濾過量と濃度の関係を見るため 50 mL、100 mL、200 mL でそれぞれ3反復とりました(計9サンプル)。


    • 濾過した環境DNAを抽出し、ウナギ特異的なプライマーを使って定量PCRを実施しました。

      予想した結果は、絶食・低水温(NFL)、絶食・高水温(NFH)、給餌・低水温(FL)、給餌・高水温(FH)の順で濃度が高くなると思いましたが、実際は給餌・低水温(FL)で最も高い値を示しました。


    • 絶食状態で高水温の環境DNA濃度が低水温より高いのは、高い水温による代謝の変化で分泌量が増えたからだと考えられます。

      給餌中、低水温の濃度が高いのは、長期間の絶食の後の給餌で消化機能が活発に動き、DNA放出量が増えたのが原因と推定されます。

      過去の研究で、ウナギは絶食期間中に栄養吸収遺伝子 (PEPT1) および 消化酵素 (Trypsinogen)の発現が上昇したという報告があります。


    • 一般線形モデルで解析した結果、給餌の有無 (Feeding) と水温 (Temperature) は両方とも環境DNA濃度に影響を及ぼしました。
      また、給餌と水温の交互作用 (Fed : Temp) も認められました。


    • 一方で、濾過量 (Volume) は環境DNA濃度に影響を及ぼしていないという結果となりました。
      実際にデータをみてみると、同じウナギを同じ環境で飼育して同じ量を濾過しても、サンプル間の偏差が激しい実験区があることが分かります。

    • つまり、水温や塩分と違って水中の環境DNAは均一ではなく、間違った解析を避けるためには複数のサンプルを取ることが大事です。

    • 自然界での環境DNA調査では、水槽内よりも複雑な要因が関わります。

      生物から放出されたDNAは、生物的(環境中の微生物、細胞外酵素など)かつ非生物的(水温、塩分、pH、光、酸素など)影響により分解速度が異なり、また放出元からの移動距離によっても濃度が変わるからです (Barnes et al., 2014; Deiner & Altermatt, 2014) 。

      環境DNAの濃度で生物量を推定するには注意が必要です。

  •