※関先生は2024年3月に北海道大学を退職されました。
工業排水試験方法における定義
懸濁・浮遊物質(Suspended Solid, SS)
目開き 2 mm のフルイを通過する物質
孔径 1 mm のろ過材の上に残る物質
溶存物質(Dissolved Matter, DM)
孔径 1 mm のろ過材を通過する物質
※以下,懸濁・浮遊物質を「SS」と略記します。
代表的なSSの分離法
ろ 過 (Filtration)
凝 集 (Flocculation)
遠心分離 (Centrifugation)
サイクロン (Cyclone)
塩濃度が上昇するとSSは凝集する
SSの工業排水基準
•神戸:40 mg/kg
•川崎・横浜:70 mg/kg
•東京:120 mg/kg
•名古屋・函館:200 mg/kg
•札幌:300 mg/kg
地域によって基準値が異なるのは,国が法律で定めた「一律排水基準」と,各自治体が定めたさらに厳しい「上乗せ排水基準」があるからです。
SS粒子間に反発力を生む電気二重層
懸濁物質の表面電荷
Marshall, Aust. H. Biol. Sci. (1967)
Huang & Lin, Adsorption from aqueous solutions (1981)
シリカ SiO₂(乾燥剤のシリカゲルと同じ物質です)
乾燥した状態
シリカ(SiO₂)の場合
水分を吸収した状態
水中では水素イオンが解離して負電荷をもちます
凝集のメカニズム 高分子凝集剤の作用機構
生物分解性凝集剤の開発
<従来の凝集剤>
無機系:PAC・硫酸アルミニウム・硫酸鉄など
有機系:ポリアクリルアミドなど
<問題点>
ポリアクリルアミドに含まれる未反応モノマーに発がん性
アルミニウムは植物根の成長を阻害
↓
生物や環境に安全な生物分解性凝集剤の開発
<当研究室の取り組み>
タンパク質を原料とした「生物分解性凝集剤」の開発
原料は,鶏卵白,牛乳,大豆,ホタテガイ加工廃棄物など
珪藻土
珪藻土は珪藻プランクトンの化石で,成分の95%以上がSiO2です。水田などにある,日本では一般的な泥土です。
頻度分布曲線(Frequency Distribution Curve)
珪藻土の粒子径分布です。モード径は10-20μmです。
生物分解性凝集剤による珪藻土の凝集実験
大豆タンパク質から作った凝集剤を使っています。 凝集剤添加量は,珪藻土の質量の1%です。
実用例:超高速凝集沈澱処理装置
生物分解性凝集剤の利用
従来の凝集剤を使うと,SSは多額の処理コストがかかる産業廃棄物になります。
A社(大豆加工,西日本)
•総排水:約500 t/日
•固形廃棄物(水分:約50%):約1 t/日
•処理費用:埋立費 約3千万円/年 + 下水処理費 約3千万円/年
B社(すり身加工,東北)
•総排水:約500-800 t/日
•固形廃棄物(水分:約50%):約5 t/日
•処理費:2 – 3万円/t
C社(小麦加工,東北)
•総排水:約250 t/日
養殖飼料の主成分である魚粉の価格が高騰しています。 安全なタンパク質由来の凝集剤で食品加工場の排水を処理すれば,回収したSSを魚粉の代わりに使えるのではないかと考えています。
小麦グルテン製造工場の排水の凝集処理
豆腐製造工場の排水の凝集処理
凝集磁気分離実験の装置1(自作)
凝集してもなかなか沈まない微生物などの分離
凝集体に磁性微粒子を混ぜて磁石で分離
凝集体が除去されると,レーザー光強度が上がる仕組み
凝集磁気分離実験の装置2(自作)
凝集体が界面を形成して沈降する速度を測定する装置