チョウザメ
海洋応用生命科学部門・増殖生物学分野・都木研究室の紹介です
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脊椎動物の発生過程では神経管を(後に脊髄に発達)誘導する機能を持つ。普通は発生の過程で後に退化する(脊椎に置き換わる)が,円孔類やチョウザメ類では脊椎の発達が不十分で,成体になっても脊索が存在する。
生物は、共通の祖先から生まれ、どこかの時点で分化して、別々に進化してきた。生物が誕生したのは、38億年前といわれているので、我々の共通祖先は38億年前に誕生した可能性がある。現存する生物のほとんどが、顕生代のはじめカンブリア紀(約5億年前)に分化したと考えられている。カンブリア紀以前(古生代)の地質記録(つまり化石)には、我々の祖先とみられる多細胞生物が見つかっていないからだ。なお、”顕生代”とは、顕か(あきらか)に、生き物がいたことが確認できる時代のことである。現代を含む顕生代の時代区分は、生物化石の情報を元に、生物相(種類や数)が大きく変わったところで仕切られている。生物相が大きく変わったことは、その直前に生物の大絶滅が起こり、その直後に生き残った生物たちの進化が急に広がったことを意味している。カンブリア紀の直前にも、生物の大絶滅が起こり(証拠はないが)、その空白を埋めるように生物進化が急速に起きたといえる。その後、度々の大絶滅イベントを繰り返して現在に至っている。
ここでは脊椎動物の進化の系統について考える。脊柱骨の中に脊髄や脊索が通っている器官が脊椎である。脊椎動物で最も原始的なものがヤツメウナギと考えられている。ただし、現存するヌタウナギが脊椎動物の祖先と同じとはいえない。現存しないが、進化の歴史のどこかで脊椎を得た動物(脊椎動物の祖先)が生まれ、それがヤツメウナギや他の脊椎動物に分化したと考えるべきである。ヤツメウナギが脊椎動物の共通の祖先に近い種なのか(あまり分化しないで現在に至っているのか)を探るには、脊椎動物ではないが、現存する近縁種(例えば頭索動物のナメクジウオ)と比べて一致点が多ければ祖先種に近いと推測される。これには体の形態の特徴を比べたり、DNAを比べる手法が用いられている。ヤツメウナギに似た生物化石が残っていれば、共通の祖先や分化時代を探る重要な証拠となるだろう。そして、祖先種から、どのように分化して現在の種に至ったのかを辿るのである。
原始的な脊椎動物の骨は軟骨であった。軟骨のまま、○×のように分化したのが現存するサメ・エイ類を含む軟骨魚類である。脊椎動物の進化の歴史のどこかで、骨を石灰化(リン酸カルシウム)して硬い骨を得たものが現れた(③)。そこから、現在に至る脊椎動物の多様性が生まれたのである。これらの分化が、どの時代に起こったのか?時間軸を与えたい。最も直接的な証拠は化石記録によるものである。しかし、化石記録が残るのは、ある場所に火山性堆積物が急に降り積もるなど、特別な場所と時に限られるので、十分な証拠が得られないことがほとんどである。DNA解析により分化回数を求め、それに要した時間を推測する方法(分子時計)もある。複数の状況証拠を付き合わせて、分化時代を推測するのである。
おおまかな時間軸を加えて、魚の進化の歴史を概観しよう。最も原始的な脊椎動物として現存するのは、ヤツメウナギやヌタウナギである。骨はやわらかい軟骨で、顎(あご)を持たないのが特徴である。この無顎類は、約4億年前(シルル紀からデボン紀初期)の海で栄えたと考えられている。デボン紀中期になると、現世のギンザメに似た顎をもつ魚類が生まれ、さらに約3億5千万年前の石炭紀になると、全身の骨が軟らかいまま進化し、サメとエイを含む軟骨魚類(なんこつぎょるい)が繁栄した。サメ類が繁栄したのと同じ時代に、骨を石灰化させて硬い骨格を持つ硬骨魚類(こうこつぎょるい)が生まれた。
硬骨魚類が多様化したのは、ペルム紀(約2億9,900万年から約2億5,100万年前)である。硬い骨の”魚”とあるが、これには4本足動物(四肢動物)も含まれる。その4本足は魚の鰭が進化したものなので、肉質な鰭を持つ動物として、肉鰭動物(にくきどうぶつ)という。原始的な肉鰭動物として、シーラカンスやハイギョが現存している。これら原始的な肉鰭動物が栄えたのはペルム紀後期(2億6千万年前)である。ペルム紀と三畳紀の境界(PT境界)での大絶滅イベントを生き残った一部の肉鰭動物がは虫類や哺乳類に分化した。中生代の陸上ではは虫類が大繁栄した。PT境界を生き残った硬骨魚類には、鰭がすじ(条)状の条鰭類(じょうきるい)もある。これが我々が思う”魚”である。
ようやくチョウザメの分類にたどり着いた。なお、チョウザメと軟骨魚類のサメは共通の祖先をもつものの、太古の昔から別々に進化の歴史を辿ってきたことがわかる。したがって、チョウザメとサメは別々の分類群に属する。それでは、チョウザメ類を分類しよう。チョウザメ目は、チョウザメ属とヘラチョウザメ属の2属からなる。チョウザメ属は、ミカドチョウザメ、ダウリアチョウザメ(ガルーガ)、アムールチョウザメ、オオチョウザメ(ベルーガ)など Acipenseridae科からなる。
チョウザメ目 Acipenseriformes
チョウザメ科 Acipenseridae
ミカドチョウザメ
ダウリアチョウザメ(カルーガ)
アムールチョウザメ
オオチョウザメ(ベルーガ)
ヘラチョウザメ科 Polyodontidae
(豆知識:ベステルはオオチョウザメとコチョウザメの交雑種。成熟年齢が7~8年と早いので、キャビアのもととなる卵巣を早く得られる。)チョウザメ科・・・北半球で海に生息し、産卵時に河川に遡上回遊するものと淡水域で一生を送るものがいる
ヘラチョウザメ科・・・中国とアメリカの淡水域でまれに汽水域に生息
ロシア沿岸には多くのチョウザメが生息している。オホーツク海に注ぐアムール川にはアムールチョウザメ、北極海に注ぐオビ川にはシベリアチョウザメ、カスピ海のオオチョウザメがある。北極海産のチョウザメが陸封されてモンゴルに生息するチョウザメもある。中国には、揚子江、長江、黄河産のチョウザメがいる。ヨーロッパにも広く分布していたが、いずれも絶滅の危機に瀕している。個体数を減らした主な原因は、乱獲と河川改修による産卵場の減少と考えられている。
日本では、かつて新潟県、福島県以北、北海道の沿岸域、天塩川や石狩川に遡上群がいたが、現在では絶滅している。絶滅した理由としては、河川改修工事により産卵に適した淵がなくなったことが挙げられる。
2004年に石狩川でダウリアチョウザメが、2013年に羅臼からミカドチョウザメが発見された。ロシアに生息する個体が回遊してきたものと思われる。
キャビア生産のため、1980年代までは、自然のチョウザメを漁獲する漁業が活発に行われてきた。自然のチョウザメが乱獲されたため、漁獲量は激減した。それに応じて、2000年代から養殖によるチョウザメ生産が急激に増えてきた。かつての漁獲量にも匹敵するように至っている。2007年の統計によると、世界のチョウザメ生産の8割を中国が占めている。いっぽう、中国は世界のキャビア生産の5%だけを占める。中国では、食肉用のチョウザメ生産がメインで、その多くが中国国内で消費されている。もちろん、中国でもキャビア生産も行われており、その量は年々増えてきている。