토픽 개요
産業利用を目指す背景
コンブは、我が国で古くより利用されてきた、日本人が誇るべき食材の一つです。その国内生産は現在、8~9割が北海道で行われていますが、この内、約3割は北海道大学大学院水産科学研究院が位置する函館地区で生産されています。ここでは、主にマコンブを対象とした安定的な養殖生産が精力的に行われていることが大きな特徴の一つです。
この地域で最も生産量が多いのは、南かやべ地区ですが、ここのコンブ養殖施設にはダルス属(Palmaria属、以下ダルスと略する)と呼ばれる海藻が自然に繁茂することが知られています。しかしながら、我が国ではこれまでのところ、収穫対象とされておらず産業利用の例も聞かれません。
ダルスは我が国で、北海道を中心に本州北部以北で自生しているとされ、一部の地域では「あかはだ」などと称して食経験があることが知られています。その資源量は、当該地域だけで年間約1,000~2,000tと推計されており、利用技術の開発が強く望まれると共に、新たな産業種としての活用が期待されています。そこで、我々は、北海道大学大学院 水産科学研究院 院長の安井肇教授を始めとした諸先生のご支援をいただきながら、未利用資源であるダルスの素材特性を把握し、新たな利用用途を開発するための検討を進めています。
日本人の経験を活かした新しい利用法の検討
ダルスは、ノリと同じ紅藻に分類される寒海性の海藻の一種で、収穫直後は紅紫色を呈しています。世界的には、北米大西洋沿岸やヨーロッパ北部に広く分布するとされ、アイルランドやカナダなどでは古くより、生のものをサラダとして食べたり、乾燥したものを調味料などに利用していると聞きます。このように、これまでのダルスの利用は生か乾燥品に限られます。このためか、学術的な研究も、ほぼ大部分が原藻を対象とした栄養学的な知見か、乾燥特性に係るものに限定されているようです。一方で、我が国には、世界的にも稀と言える海藻のボイル塩蔵技術があり、優れた知見と多くの経験を有しています。そこで、私達は新たな用途開発の方向性として、日本人ならではの新しい視点で素材特性や利用適性を探る試みを進めました。
上述の通り、ダルスは生だと紅紫色を呈していますが、ボイルによってどのような色合いが発現するのか知られていません。そこで、初めに、ダルスを沸騰海水中でボイル加熱した際の色調変化を観察しました。そうしたところ、ダルスは原藻が呈している紅紫色から緑色へと変化することが分かりました。しかしながら、ワカメやコンブといった海藻やニラやネギなどの野菜のように、私達が良く利用する食材にも緑色を持ったものは数多く存在しています。そこで、ダルスにしかない特徴を得るべく、更に検討を進めました。その結果、ボイル加熱によって緑色化させたダルスの色調は、熱に強い特徴があることが分かってきました。
ここでは、一部の結果のみを示しますが、市販されているコンブやワカメのボイル塩蔵品を95℃の人工海水中で4時間ボイルを続けると、灰褐色化が進み色調が劣化してしまいますが、同様の実験をボイル塩蔵したダルスで行うと、4時間のボイル後でも綺麗な緑色が保持されていることが確認されました。次に、この緑色がどこまで熱に強いのかを知るために、レトルト加熱を施した際の色調を観察しました。ここでは結果を示しませんが、95℃の人工海水でボイルすることにより一旦緑色化させたダルスを20倍量の同溶液とともに包装資材へ充填し、120℃で10分間のレトルト加熱処理を施したところ、加熱後も著しい緑色の低下が認められないことが確認されました。こうした結果から、ダルスが持つ緑色は、レトルト加熱を行っても十分保持できるほど、加熱耐性に優れることが明らかになりました。
産業利用に向けて
これまでの取り組みにより、ダルスには他の食材ではなかなか見られない特徴があることが明らかになりました。しかし、その食味や食感が広く消費者に受け入れられるものでなければ、食品としての利用は難しいのが現実です。そこで、2014年2月に函館市南かやべ地区で収穫されたダルスをボイル塩蔵加工して試験販売し、一般消費者の方からのコメントを集めました。その結果、ノリのような香味を持ち、他の海藻では見られないシャキシャキとした食感があり、とても美味しいとの評価が得られました。こうした声は、ダルスの産業利用を加速させる上で、意義深いものと考えています。
また、近年は、消費者の簡便志向の高まりを受けて、レトルトパウチ食品やチルド食品の売り上げが堅調な伸びを示していると言われています。
レトルト加熱は、水分が多い食品でも常温で長期の保管流通を可能にする優れた殺菌技術ですが、これにより製造されるレトルトパウチ食品では食品衛生法上、「中心温度120℃4分相当以上」という過酷な加熱処理を行うことが義務付けられています。また、惣菜類によくみられるチルド食品も、多くは包装後に100℃以下で数分~数十分の二次殺菌を行うことで、一定の保存性を確保していると聞きます。こうした製品では何れも、一定の加熱処理が施されるため、鮮やかな色合いを維持するのが難しいとされています。特に、レトルトパウチ食品で緑色を残すことは永遠の課題とされていると言われています。今回の結果から、ボイルなどの加熱処理によって緑色化したダルスの色調(緑色)は、レトルト加熱に対しても十分に耐えられることが確認されました。このことから、ダルスは、色調に着目した付加価値の高い商品作りを求める食品業界に新たなビジネスチャンスをもたらす素材として、とても興味深いものだと考えています。今後、関連業界の方々の示唆もいただきながら、産業利用に向けた有意義な用途開発を進めたいと思っています。
将来に向けて
ダルスは、海外の一部の国で古くより利用されてきた海藻ですが、我が国ではコンブ生産の陰に隠れて目が向けられてこなかった資源の一つと言えます。いやむしろ、貴重なコンブ生産の邪魔をする厄介者と捉えられてきた側面の方が強いかもしれません。こうした資源に新たな価値を見出す試みは、今後の我が国水産業の発展に資する大きな社会的意義を有していると考えます。
私達の取り組みの目標は、これまで利用されてこなかった海藻に付加価値を付与し、新たな地域資源として活用していくことにあります。現在の日本で、ワカメやコンブを知らない人はいないでしょう。一方で、今はダルスを知っている人がほとんどいないのが現状です。将来、ダルスと聞けば「あの海藻ね!」というくらい認知が拡がり、食品素材としての確たる地位を得ることができれば、その後は50年、100年と続く利用の文化が生まれ、我が国の大きな財産になるものと考えます。こうした将来の実現に向けて、北海道大学大学院水産科学研究院の諸先生から得られる栄養成分や健康機能に係る知見も活用させていただきながら、また、様々な分野でご活躍されている北水同窓会の皆様のご支援もいただきながら活動を進めていきたいと考えています。
出典
親潮(北水同窓会誌)第305号(2015)北海道立工業技術センター 木下 康宣(平21)