Topic outline
ダルスの脂肪酸組成
一般に海藻の主成分は糖質であり、脂質含量が低いことは広く知られています。紅藻であるダルスについても同様で、筆者らの分析結果では乾燥重はあたり3%前後でした。また、主要な脂質クラスもモノガラクトシルジアシルグリセロールなどのグリセロ糖脂質であり、紅藻に限らずコンブなどの褐藻やアオサなどの緑藻とも大きな違いは見られません。
一方、脂質に結合している脂肪酸の組成は、紅藻、褐藻、緑藻間で大きく異なっており、特にダルスでは特徴的な組成になっています。函館沿岸で採取したマコンブとダルスの脂肪酸組成を比較してみると、n-3系の高不飽和脂肪酸であるEPA (20:5、エイコサペンタエン酸)がダルスでは50%以上と非常に高く、n-6系脂肪酸のアラキドン酸(20:4)は3.5%と低い結果が得られました。また、n-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸の比率(n-3/n-6 ratio)については、マコンブの15倍以上もの高い値を示し、特徴的な脂肪酸組成であることがうかがえます(表1)。
表1:ダルスとマコンブの脂肪酸組成
更に、脂質クラスごとに詳細に脂肪酸組成を分析したところ、最も主要なモノガラクトシルジアシルグリセロールでは、EPA含有率が70%以上にも達し、極めて高含有率であることが確認されました。このようにEPAを高い割合で含む海藻は、紅藻の中でもスサピノリを含めいくつかのものに限定されており、ダルス脂質成分の特徴といえます。
EPAは、血中脂質の低下作用をはじめ優れた健康機能が知られており、高純度に精製したエチルエステル体は医薬品として利用されています。脂質含量が少ないことから、ダルスに含まれるEPAを抽出、精製して利用することは効率的ではありませんが、海藻の付加価値的な栄養成分として興味深いと考えています。
ダルスに含まれるカロテノイド
カロテノイドは光合成補助色素として、集光機能に加え、過剰な光を熱として散逸する働きをもった脂質成分です。陸上植物はもとより、紅藻や褐藻、緑藻問では、それらに含まれるカロテノイドの種類が大きく異なっています
図1:ダルスに含まれるカロテノイドのTLC分析
図1に示すように、褐藻のワカメではフコキサンチンが主要なカロテノイドであるのに対し、紅藻のダルスではβ-カロテンに加え、ルテイン/ゼアキサンチン(シリカゲルTLCでは同じ位置に展開され区別できません)が高い割合で含まれています。一方、ホウレン草では、明瞭ではありませんがβ-カロテン、ルテイン/ゼアキサンチンに加え、ビオラキサンチン、ネオキサンチンなど複数のカロテノイドが含まれており、緑藻も類似の組成で、紅藻とは異なります。
このように、ダルスに高い割合で含まれるルテイン/ゼアキサンチンは、近年世界的に問題となっている高齢者での加齢黄斑変性症に対して予防効果を発揮することが報告されています。ダルスを直接摂取することによる予防効果については、その含量や吸収性を含めて詳細に検討する必要がありますが、興味深い脂質成分といえます。
ダルスには、前項で紹介されているように機能性をもった糖質やタンパク質成分が含まれています。そのような含量の多い有用成分の利用が可能になれば、抽出した粉末には脂質成分が濃縮されて残存することになり、新たな利用法につながるかもしれません。ダルス脂質成分については、その機能性や利用法を含めた研究展開が期待されます。
出典
親潮(北水同窓会誌)第305号(2015) 細川雅史(平2食)