單元大綱

    •  青森県陸奥湾では,北海道の太平洋と日本海の陸棚斜面から産卵回遊してくるマダラを12 月から2 月に漁獲している。産卵魚の一部は北海道木古内沖でも産卵している(図6.1)(夏目・藤沢,1998)。しかし,北海道周辺の他の産卵場は,どこにあるのかよくわかっていない。


    • 図6.1 津軽海峡のマダラの産卵場(水深60m前後の海底)と,未成魚・成魚の索餌場(オレンジ色の水深100~400mの海底)。国土地理院の水深データ,夏目・藤沢(1998),髙津(1998b)を参照して作図。

    •  マダラの卵は直径約1mm で,海水より重く,弱粘性の粘液で海底の砂などに付着する。卵から孵化したばかりの仔魚は,陸奥湾では湾口部でしか採集できないため,産卵場は水深60m からやや深い砂礫底のようだ(図6.1)。底質が柔らかい泥だと,埋もれて酸素不足になりやすいし,卵膜にバクテリアが付着することもあるから,硬い泥や砂礫底で,ある程度の流れがある場所のほうが産卵に適している。1940 年代には湾内の浅虫沖にも産卵する年があったが(川村・小久保,1950),現在は見られない。

       福田ほか(1985)や三浦ほか(2019)の標識放流調査の結果を参照すると,産卵後のマダラは,おおよそ10 尾のうち7 尾は北海道沖の太平洋に,3 尾は北海道沖の日本海に回遊している。一部は太平洋では道東沖まで,日本海では積丹沖まで回遊している。だから,日本海北部の利尻・礼文周辺から石狩湾に生息するマダラや,オホーツク海のマダラとは,別の系群のようだ。また,三浦ほか(2019)は,陸奥湾に翌年以降に回遊する個体が9 割を超えることから,回帰性が強いと推定している。驚くべきは再捕率が12% と高いことだ。陸奥湾での放流直後の再捕が多いとはいえ,高い再捕率は漁獲圧が高いためかもしれない。また,この標識放流は産卵後の成魚の回遊経路で行われたものなので,稚魚や未成魚の湾外への回遊経路は不明だ。

       そもそも漁獲量が減る原因は,漁業者や遊漁者が獲りすぎることを除けば,卵・仔魚・稚魚期の生残率が,水温や餌生物の量,他の魚に食われて死ぬ数などによって年ごとに大きく変動し,資源が減少するためだ。しかし,マダラの生残過程は海外を含めてあまり研究されていなかった。そのため筆者は,陸奥湾のマダラ仔稚魚の生残戦略の研究を1989 年に開始した。具体的には,陸奥湾で孵化したマダラの仔魚や稚魚が,どこに生息し,何を食べて,どれくらいまで成長するのか調査した。