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    •  後輩たちと夜な夜な奮闘した結果,テナガのオスが既知個体を識別できる可能性が示唆された(Yasuda et al. 2014a)。1回目の闘争でガードオスに敗北した単独オスは,2回目の闘争相手によって明らかに行動を変えたのである:2回目の闘争で別のガードオスと遭遇した場合,①では1回目の闘争と同じように相手に闘争を仕掛け,②では仕掛けた頻度は若干落ちたものの,粘って闘争を続ける傾向が示された。一方,同じ相手と再闘争させた③では,闘争を仕掛けた単独オスはごくわずかで,仕掛けた後もすぐに撤退した(図5.4)。これらの結果は,本種のオスが,わずか 10 分間のオス間闘争からでも,「1度負けた相手」への既知性を確立し,「そうではない未知の相手」から個体識別することで,勝てる見込みのない闘争を回避できていることを示唆する。


      図5.4 テナガホンヤドカリにおける既知個体の識別。未知の勝者群と既知の勝者群を比較した。敗北後の2回目の闘争において、1回目の闘争相手とは異なる未知のガードオスに比べ、1回目の闘争と同じ既知のガードオスと遭遇した単独オスは、相手に闘争を仕掛ける頻度、仕掛けた闘争の継続時間ともに大幅に減少した。箱ひげ図の上の数値は列数を表す。(Yasuda et al. 2014a を基に作成)