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    •  大型カイアシ類(Calanus  glacialis)の個体群構造を 2017 年と 2018 年で比較すると,2018 年の方が,個体数が多く,平均発育段階が低いことがわかりました(図 1)。このことは,若い個体が多いことを意味し,この種の産卵時期が,2018 年の方が遅かったと考えられます。衛星と係留系による観測で,2018 年は,通常年よりも 1 か月ほど早く海氷が融解し,植物プランクトンブルームが遅く発生したことが知られています。この大型カイアシ類は餌を食べながら産卵をするので,ブルームが遅いことによって,この種の産卵時期が遅くなっていたと考えられます(図 2)。 

       また,カイアシ類の生物量を 2017 年と 2018 年で比較すると,2017 年は大型カイアシ類が多く,2018 年は小型カイアシ類が多いことがわかりました(図 3)。高次捕食者にとっての餌の側面から考えると,小型カイアシ類は,体内に油を溜めないために栄養価が低く,サイズが小さいために食べられにくいと考えられます。すなわち,2018年は,魚類にとって良い餌である大型カイアシ類が減少し,代わりに小型カイアシ類が多かったため,高次捕食者にとっての餌環境が悪化していたと考えられます。 

       このように,海氷融解時期の変化を始めとして,植物プランクトンブルームの時期が変わり,その影響がカイアシ類を経由し,高次捕食者にまで及んでいたことが明らかとなりました。 



    • 図 1.大型カイアシ類 C. glacialis の個体数と平均発育段階。円の大きさで個体数を,色で平均発育段階を示す。 




    • 図 2.海氷融解,植物プランクトンブルーム,カイアシ類の産卵と成長の模式図。 


    • 図 3.カイアシ類の生物量の年比較。色はカイアシ類のサイズと種類を示す。赤枠は,魚類が摂餌可能な大きさのカイアシ類の生物量を示す。