用語集
DEAE(ディーイーエーイー):ジエチルアミノエチル
KCl(ケーシーエル):塩化カリウム
M(モーラー):mol/L
Q-Sepharose(キューセファロース):アガロースビーズを担体とした強イオン交換担体
Quaternary ammonium(クォーテナリーアンモニウム):第四級アンモニウム
アガロース:ゲル化しやすい中性多糖
陰イオン交換体官能基(いんいおんこうかんたいかんのうき):プラスの電荷をもち、陰イオンを結合する官能基
塩基性アミノ酸(えんきせいあみのさん):塩基性の側鎖をもつアミノ酸
塩化物イオン(えんかぶついおん):塩素の陰イオン
解糖系(かいとうけい):糖の代謝経路
化学修飾(かがくしゅうしょく):官能基を化学的に変化させること
吸光度(きゅうこうど):溶液に吸収される光の量
筋形質画分(きんけいしつかくぶん):筋繊維の細胞質の一部の成分を取り分けたもの
緩衝液(かんしょうえき):濃度が変化してもpH が大きく変化しない溶液
クロマトグラフィー:物質を分離、精製する手法の1種
懸濁(けんだく):固体粒子が液体中に分散した状態
酵素(こうそ):タンパク質性の触媒
サイトゾル:細胞質から細胞小器官を除いた部分
酸性アミノ酸:酸性の側鎖をもつアミノ酸
担体(たんたい):他の物質を固定する土台となる物質
芳香族(ほうこうぞく):芳香族化合物、環状不飽和有機化合物の一群
ミオグロビン:タンパク質の1種
リニアグラジエント:直線的濃度勾配
字幕
1
00:00:05,605 --> 00:00:14,347
タンパク質の混合物から 構成成分を分離するという
クロマトグラフィーの手法です
2
00:00:14,347 --> 00:00:16,616
何を分離するかというと
3
00:00:16,616 --> 00:00:22,122
この実験の初日にできた
筋形質画分
4
00:00:22,122 --> 00:00:30,797
コイの挽肉に低塩濃度緩衝液を添加して
ガーゼで濾過した濾液です
5
00:00:30,797 --> 00:00:36,269
濾液は凍らせて
冷凍庫に保管されていますが
6
00:00:36,269 --> 00:00:42,375
そこには解糖系の酵素とか
ミオグロビンとか
7
00:00:42,375 --> 00:00:49,683
アクトミオシン以外のサイトゾルに含まれる
タンパク質が溶けています
8
00:00:49,683 --> 00:00:56,89
それを分離・分析するのが
今日と明日2日間の実験です
9
00:00:56,89 --> 00:01:02,662
空のカラムに 担体を充填するのが
今日の作業です
10
00:01:02,662 --> 00:01:04,764
実物(の担体)は これですが
11
00:01:04,764 --> 00:01:09,703
今は 1M の塩化カリウム溶液に
懸濁してあります
12
00:01:09,703 --> 00:01:14,908
下の方に沈んでいますが
(担体は)球状のビーズ(Q-Sepharose)です
13
00:01:15,41 --> 00:01:22,48
直径が だいたい90μm
14
00:01:22,515 --> 00:01:26,19
アガロースのビーズです
15
00:01:26,19 --> 00:01:33,159
アガロースは多孔質なので
中に溶媒やタンパク質がしみこんでいきます
16
00:01:33,560 --> 00:01:38,598
このアガロースに
化学修飾がされていきます
17
00:01:38,598 --> 00:01:44,70
何が結合するかというと
この「Q」が結合します
18
00:01:44,70 --> 00:01:48,708
この「Q」が何かというと
19
00:01:48,708 --> 00:01:59,619
(陰イオン交換体官能基の1種
Quaternary ammoniumです)
20
00:01:59,619 --> 00:02:09,629
こういうものが
表面にたくさん結合しています
21
00:02:10,697 --> 00:02:16,636
こういう官能基なのですが
常に正に荷電しています
22
00:02:16,636 --> 00:02:22,575
例えば 今でしたら 1M の塩化カリウム溶液に
懸濁していますが
23
00:02:22,575 --> 00:02:32,585
塩化カリウムの中の塩化物イオン(Cl⁻)と
結合した状態になっています
24
00:02:32,585 --> 00:02:39,526
こういうものが
表面にいっぱいくっついた
25
00:02:39,526 --> 00:02:44,30
つまり 正に荷電した官能基が
26
00:02:45,365 --> 00:02:54,474
たくさん表面に付いた
ビーズになるのですが
27
00:02:54,474 --> 00:03:04,17
ここに 負に荷電したタンパク質を流して
+ と- を引き合わせて結合させる
28
00:03:04,551 --> 00:03:09,289
結合の強さが
タンパク質の種類によって違うことを利用して
29
00:03:09,289 --> 00:03:16,396
タンパク質の混合物から
個々のタンパク質を分離する というのが
30
00:03:16,396 --> 00:03:19,799
イオン交換クロマトグラフィーです
31
00:03:20,200 --> 00:03:29,576
+ に荷電している担体ですから
ここに結合するのは - に荷電したものとなります
32
00:03:29,576 --> 00:03:38,551
タンパク質の中でも
- によく荷電したタンパク質は強く結合しますし
33
00:03:38,551 --> 00:03:50,597
そうではなく + に荷電したタンパク質は結合しない
という特性を示します
34
00:03:51,364 --> 00:03:57,904
時間短縮のために
今回は 空のカラムの中に
35
00:03:57,904 --> 00:04:04,611
半分くらい 担体を詰めています
36
00:04:04,611 --> 00:04:12,686
その上から
タンパク質の混合物を流し込みます
37
00:04:13,520 --> 00:04:18,725
そして このチューブの先から
38
00:04:21,628 --> 00:04:33,173
分離して出てくるものを
5ml ずつ 別々の試験管で取ります
39
00:04:34,307 --> 00:04:43,49
担体に強く結合する - の荷電の強いタンパク質は
なかなか出てきません
40
00:04:43,49 --> 00:04:50,223
しかし + の荷電を持ったタンパク質は
反発しあうので 決して結合しません
41
00:04:50,223 --> 00:05:01,234
それから - の荷電を持っていても
タンパク質の種類で 荷電の強さが違います
42
00:05:01,768 --> 00:05:07,974
少ししか - の荷電がないタンパク質は
(出てくるのが)比較的早いです
43
00:05:07,974 --> 00:05:11,378
たくさん- の荷電を持っているタンパク質は
なかなか出てこないです
44
00:05:11,378 --> 00:05:17,617
タンパク質の荷電状態は
種類によって違います
45
00:05:17,617 --> 00:05:22,589
それを左右するのは
タンパク質のアミノ酸配列の中に
46
00:05:22,589 --> 00:05:27,327
どういうアミノ酸が
どのくらい含まれているかということになります
47
00:05:27,327 --> 00:05:34,134
(プリントの)上に
酸性アミノ酸と塩基性アミノ酸がありますが
48
00:05:34,134 --> 00:05:42,709
酸性アミノ酸
これは下の方を向いているCOOH(カルボキシ基)
49
00:05:42,709 --> 00:05:47,47
ここが中性付近では
COO⁻ に解離しますので
50
00:05:47,47 --> 00:05:48,682
この酸性アミノ酸
51
00:05:48,682 --> 00:05:53,586
アスパラギン酸とグルタミン酸が
相対的に多く含まれているタンパク質は
52
00:05:53,586 --> 00:06:00,326
より強く負に荷電する
そんなタンパク質を 酸性タンパク質と言います
53
00:06:00,326 --> 00:06:03,863
この 陰イオン交換クロマトグラフィーをすると
54
00:06:03,863 --> 00:06:07,567
(正に荷電した)担体とより強く結合するので
なかなか出てきません
55
00:06:07,567 --> 00:06:11,304
一方 タンパク質は
酸性アミノ酸だけではなく
56
00:06:11,304 --> 00:06:15,642
塩基性アミノ酸も
たくさん存在しています
57
00:06:15,642 --> 00:06:19,212
ヒスチジンは
あまり強い塩基性アミノ酸ではないですが
58
00:06:19,212 --> 00:06:30,223
リジンやアルギニンの先端にあるNH₂や
アルギニンのグアニジノ基は
59
00:06:30,223 --> 00:06:35,462
これは 中性付近では
強く正に荷電しています
60
00:06:35,462 --> 00:06:39,766
相対的に 酸性アミノ酸と
塩基性アミノ酸はどちらが多いか
61
00:06:39,766 --> 00:06:46,606
まったく同じ数だと
荷電が0 になってしまうのですが
62
00:06:46,606 --> 00:06:51,311
塩基性アミノ酸のほうが
酸性アミノ酸より多い場合
63
00:06:51,311 --> 00:06:57,917
担体の荷電と
タンパク質の荷電が反発しあうので
64
00:06:57,917 --> 00:07:02,322
上から流した時に
担体と全く結合しないで真っ先に流れてきます
65
00:07:02,322 --> 00:07:03,690
明日についてですが
66
00:07:03,990 --> 00:07:06,626
グラフを描いてもらいます
67
00:07:06,626 --> 00:07:10,597
グラフの確認が終わってから
帰っていただきます
68
00:07:10,597 --> 00:07:14,534
横軸は溶出体積
69
00:07:14,901 --> 00:07:19,406
溶出体積とは
下から何ml 出てきたか
70
00:07:22,442 --> 00:07:27,213
縦軸は吸光度なのですが
71
00:07:28,548 --> 00:07:33,286
多くのタンパク質は
芳香族のアミノ酸を持っていますので
72
00:07:33,286 --> 00:07:36,923
紫外線を吸収します
73
00:07:36,923 --> 00:07:43,263
280nm の紫外線の吸光度を測ります
74
00:07:43,263 --> 00:07:47,267
下から出てきた溶液を
5ml ずつ試験管に受け取って
75
00:07:47,267 --> 00:07:55,408
10本くらいとって 吸光度を測り
グラフにプロットします
76
00:07:55,408 --> 00:08:01,481
だいたい 山が2つくらいできると思います
77
00:08:02,215 --> 00:08:10,690
最初の山は
塩基性タンパク質
78
00:08:10,690 --> 00:08:14,594
早く出てきます
79
00:08:14,594 --> 00:08:20,66
遅れて出てくるのは
(担体と)強く結合している 酸性タンパク質です
80
00:08:20,66 --> 00:08:26,740
単にタンパク質の混合液を流すだけでも
分離しますが
81
00:08:26,740 --> 00:08:30,877
効率よく分離するためには
82
00:08:30,877 --> 00:08:35,48
例えば 強く担体に結合したタンパク質は
83
00:08:35,48 --> 00:08:39,652
溶媒をたくさん流しても
がっちり結合しているので 出てきません
84
00:08:39,652 --> 00:08:45,392
結合しているのを
離すためにどうするかというと
85
00:08:45,392 --> 00:08:52,98
(担体に) - の荷電を持ったタンパク質が
結合しているのですが
86
00:08:52,98 --> 00:09:02,42
タンパク質よりも もっと強く - に荷電していて
強く担体と結合する溶媒を
87
00:09:02,42 --> 00:09:06,546
上から流していく
それは何かというと
88
00:09:06,546 --> 00:09:10,917
今回の場合は塩化物イオンです
89
00:09:10,917 --> 00:09:16,256
塩化物イオンを 1M KCl溶液に懸濁してありますが
90
00:09:16,256 --> 00:09:23,363
1M までではありませんが
最大で300mM の塩化カリウムを流していて
91
00:09:23,363 --> 00:09:25,799
塩化物イオンが流れてくると
92
00:09:25,799 --> 00:09:35,809
濃度にもよりますが
+ の部分に塩化物イオンが結合していきます
93
00:09:36,843 --> 00:09:46,853
始めはタンパク質が結合していたのですが
これが塩化物イオンに置き換わります
94
00:09:46,853 --> 00:09:55,95
そして タンパク質が離れて
下から出てきます
95
00:09:55,95 --> 00:10:02,302
強く結合しているタンパク質は
塩化物イオンの濃度を高くしないと出てきません
96
00:10:02,302 --> 00:10:12,312
弱く結合しているタンパク質は
比較的低い塩化物イオンの濃度でも出てきます
97
00:10:12,679 --> 00:10:19,285
上から流す溶媒の中に含まれる
塩化物イオンの濃度ですが
98
00:10:19,285 --> 00:10:25,592
始めは低くして
徐々に高くしていくというように
99
00:10:25,592 --> 00:10:29,662
溶媒を流して溶出させます
100
00:10:29,662 --> 00:10:33,433
これが 塩化物イオンの濃度の変化です
101
00:10:33,433 --> 00:10:45,345
最初は0mM 最後は300mM になるように
102
00:10:46,179 --> 00:10:49,115
(右上がりのグラフを)
「リニアグラジエント」と言います
103
00:10:49,115 --> 00:10:53,286
上から流す緩衝液に含まれる
塩化物イオンの濃度を
104
00:10:53,286 --> 00:10:57,724
0から300mM に
直線的に上げていくことによって
105
00:10:57,724 --> 00:11:01,628
弱く結合している
タンパク質を先に出し
106
00:11:01,628 --> 00:11:04,964
強く結合している
タンパク質を後から出す
107
00:11:04,964 --> 00:11:07,133
そのようにして
分離を行います
108
00:11:07,133 --> 00:11:12,539
今日使う担体は
「Q-Sepharose」ですけれども
109
00:11:12,539 --> 00:11:17,77
陰イオン交換担体は
ほかにもいろいろな種類があります
110
00:11:19,479 --> 00:11:29,489
原研究室の学生実験では
DEAEを使いましたが それは
111
00:11:31,691 --> 00:11:38,465
ジエチルアミノエチル というもので
これは
112
00:11:39,199 --> 00:11:48,441
ここに水素イオンが結合すると
+ に荷電した状態になります
113
00:11:48,441 --> 00:11:52,645
結合していなければ
荷電はなくなります
114
00:11:54,47 --> 00:11:56,850
溶媒のpHによりますが
115
00:11:56,850 --> 00:12:02,756
中性付近ではここに水素イオンが結合すると
+ に荷電する
116
00:12:02,756 --> 00:12:07,761
今回使う 「Q-Sepharose」は
117
00:12:07,761 --> 00:12:12,832
水素イオンが結合していなくても
最初から+ に荷電しています
118
00:12:12,832 --> 00:12:18,338
なので DEAEよりも
より強く正に荷電しているので
119
00:12:18,338 --> 00:12:25,812
今回の担体のほうが
陰イオン性のタンパク質を結合する力が強いです
120
00:12:25,812 --> 00:12:32,385
ですので 溶出させるのにも
DEAEよりも強い条件で
121
00:12:32,385 --> 00:12:38,625
塩化物イオンの濃度を
より高めにしなければなりません
122
00:12:38,625 --> 00:12:42,796
つまり 含まれているタンパク質の種類によって
このような担体
123
00:12:42,796 --> 00:12:48,768
陰イオン交換担体でも
いろいろな種類を使い分けるようにします