用語集
ADP(エーディーピー):アデノシン二リン酸
ATP(エーティーピー):アデノシン三リン酸
Z線(ゼットせん):横紋筋のサルコメアを仕切る盤状の構造
アクチン:アクチンフィラメントを形作るタンパク質
アクチンフィラメント:タンパク質の複合体
アクトミオシン:アクチンとミオシンの結合体
ウラン:ウラニウム、原子番号92の元素
加水分解(かすいぶんかい):反応物に水が反応し、分解生成物が得られる反応
光学顕微鏡(こうがくけんびきょう):可視光線を利用する顕微鏡
酵素(こうそ):タンパク質性の触媒
酢酸ウラン:酢酸ウラニル、ネガティブ染色法に使用される
サルコメア:筋原線維の構造および筋収縮の単位
重金属(じゅうきんぞく):比重が4以上の金属元素
超沈殿(ちょうちんでん):アクトミオシンに、ATPを加えると収縮して生じる特異な沈殿
電子線(でんしせん):電子ビーム、ある方向に向かう電子の流れ
透過型電子顕微鏡(とうかがたでんしけんびきょう):観察対象に電子線をあて、透過してきた電子線の強弱から観察する電子顕微鏡
トロポニン:トロポニンT、I、Cの複合体
トロポミオシン:アクチン結合タンパク質
ニトロセルロース:セルロースの硝酸エステル
ネガティブ染色法:試料の周辺を染色することによって観察する手法
ミオシンフィラメント:ミオシンが繊維状に結合したもの
ミオシン:タンパク質の1種
リン酸:リンのオキソ酸の1種
字幕
1
00:00:05,605 --> 00:00:12,45
皆さんが作るアクトミオシンは
非常に巨大な分子になります
2
00:00:12,45 --> 00:00:17,751
溶液になっていて溶けていますが
分子がすごく大きいので
3
00:00:17,751 --> 00:00:21,654
電子顕微鏡で見ると
観察することができます
4
00:00:21,654 --> 00:00:41,7
こちらの左側の写真は
観察倍率2万倍で
5
00:00:41,7 --> 00:00:47,447
作ったアクトミオシンを染色して
電子顕微鏡で観察したものです
6
00:00:47,447 --> 00:00:51,451
透過型電子顕微鏡なのですが
7
00:00:51,451 --> 00:00:54,688
光学顕微鏡と違って
8
00:00:54,688 --> 00:01:02,495
像のコントラストは
電子線の通りやすさで付きます
9
00:01:02,495 --> 00:01:08,668
電子線が通りにくい所は色が濃く見えて
通りやすい所は明るく見える
10
00:01:08,668 --> 00:01:15,742
染色するときに
電子を通しにくいような染色剤を使います
11
00:01:15,742 --> 00:01:21,614
この場合は重金属 ウラン
酢酸ウランという試薬を使って
12
00:01:21,614 --> 00:01:29,889
まず ニトロセルロースの薄い膜に溶液を垂らして
13
00:01:29,889 --> 00:01:36,496
そこに酢酸ウランの溶液を垂らして乾燥する
14
00:01:36,496 --> 00:01:43,303
するとタンパク質の分子があって
分子そのものはウランでは染まらないのですが
15
00:01:43,303 --> 00:01:47,774
(タンパク質の)周辺にウランの溶液がたまります
16
00:01:47,774 --> 00:01:52,312
そして乾燥したものを
透過型電子顕微鏡で観察すると
17
00:01:52,312 --> 00:01:55,315
タンパク質分子は白く抜けて見えますが
18
00:01:55,315 --> 00:02:00,320
その周辺が暗くなって
タンパク質分子の形が見えるという
19
00:02:00,320 --> 00:02:03,23
ネガティブ染色法というのですが
20
00:02:03,23 --> 00:02:07,494
そのようにしてアクトミオシンの観察ができます
21
00:02:07,494 --> 00:02:14,367
長さは1.2μm
光学顕微鏡でも見える長さです
22
00:02:14,367 --> 00:02:20,106
これをさらに拡大してみると
このようになります
23
00:02:20,106 --> 00:02:24,477
この1本1本が
アクトミオシンの分子です
24
00:02:24,477 --> 00:02:30,417
これを見ると 突起のようなものがたくさん出ています
25
00:02:30,417 --> 00:02:35,88
この突起は ミオシン分子です
26
00:02:35,88 --> 00:02:39,659
アクトミオシンはどのようなものかというと
27
00:02:39,659 --> 00:02:45,532
まず アクチンフィラメントが
アクトミオシンの中に存在しています
28
00:02:45,532 --> 00:02:50,303
アクチンフィラメントというのは
アクチンが100% でできているのではなくて
29
00:02:50,303 --> 00:02:55,408
アクチンは この球状のタンパク質で
30
00:02:55,408 --> 00:03:01,381
それが数珠つなぎになって
二重らせんを描いて長くなっているのですが
31
00:03:01,381 --> 00:03:07,253
その上にトロポミオシンやトロポニンという
タンパク質が結合しています
32
00:03:07,253 --> 00:03:13,193
こういう物にさらにミオシン分子
33
00:03:13,193 --> 00:03:16,196
こういう分子量50万ほどの
34
00:03:16,196 --> 00:03:21,568
ミオシン分子が頭部で
アクチンにたくさん結合している
35
00:03:21,568 --> 00:03:24,270
これがアクトミオシンです
36
00:03:24,270 --> 00:03:31,811
なので 先ほどの図にあった突起の部分は
ミオシン分子です
37
00:03:31,811 --> 00:03:36,316
この突起をよく見てみると
38
00:03:36,316 --> 00:03:41,187
(図に)「矢尻構造」と書いてありますが
39
00:03:41,187 --> 00:03:50,897
突起の付いている向きが
一定方向なのが分かります
40
00:03:50,897 --> 00:04:04,611
このような方向で突起が付いています
41
00:04:04,611 --> 00:04:13,386
こちらは逆にこのように付いています
42
00:04:13,386 --> 00:04:18,625
これは何故かというと
アクチンフィラメントに結合するミオシン分子の向きが
43
00:04:18,625 --> 00:04:22,862
それぞれのフィラメントで
一定になっているからです
44
00:04:22,862 --> 00:04:29,369
これは アクチンフィラメントに
方向性があるということです
45
00:04:29,369 --> 00:04:34,274
元々筋肉の中ではこういう
サルコメア構造をとっています
46
00:04:34,274 --> 00:04:39,612
この突起の向きは
この図のように対応している
47
00:04:39,612 --> 00:04:45,185
つまり矢印の方向
48
00:04:45,185 --> 00:04:53,93
例えば これは
こちらの方向になっているのですが
49
00:04:53,93 --> 00:05:02,936
この矢印の方向は このようになりますね
50
00:05:02,936 --> 00:05:26,259
つまり このアクチンフィラメントは
こちら側がZ線だったということになります
51
00:05:26,259 --> 00:05:33,733
筋肉が縮むときは
Z線の方がたぐり寄せられるように移動するので
52
00:05:33,733 --> 00:05:37,937
ちょうどこの矢印の向きに
53
00:05:37,937 --> 00:05:45,645
ミオシンフィラメントがアクチンフィラメントを
たぐり寄せて収縮します
54
00:05:45,645 --> 00:05:52,385
こういう物が
皆さんの作ったアクトミオシンですが
55
00:05:52,385 --> 00:05:56,122
これにATPを加えてみるというのが
56
00:05:56,122 --> 00:05:58,958
今日の超沈殿の観察となります
57
00:05:58,958 --> 00:06:03,163
(アクトミオシンに) ATPを加えたときに
どんなことが起こるのかということですが
58
00:06:03,163 --> 00:06:07,267
筋収縮と同じような現象が起こる
と言われています
59
00:06:07,267 --> 00:06:10,770
アクチンフィラメントにミオシンが
結合している状態というのは
60
00:06:10,770 --> 00:06:14,774
結構がっちりと
結合した状態になっています
61
00:06:14,774 --> 00:06:17,310
ここにATPを入れると
62
00:06:17,310 --> 00:06:21,147
ATPは ミオシンの頭部に結合するのですが
63
00:06:21,147 --> 00:06:25,452
すると ミオシンの頭部が
アクチンから離れてしまいます
64
00:06:25,452 --> 00:06:29,289
離れるのですが
ATPはまだそのままで
65
00:06:29,289 --> 00:06:36,763
頭部でATPが ADPとリン酸に
酵素的に加水分解されます
66
00:06:36,763 --> 00:06:41,701
加水分解されても
まだADPとリン酸は頭部にくっついたままです
67
00:06:41,701 --> 00:06:46,740
この状態のままで
アクチンと結合できます
68
00:06:46,740 --> 00:06:49,409
ATPが結合すると離れるのですが
69
00:06:49,409 --> 00:06:53,113
ATPが分解されると アクチンに結合できる
70
00:06:53,113 --> 00:06:57,650
しかし 結合する場所を見ると
71
00:06:57,650 --> 00:07:01,788
最初に結合していた場所と
違う所に結合しています
72
00:07:01,788 --> 00:07:09,763
次に この頭部が
首を振るように角度を変えます
73
00:07:09,763 --> 00:07:14,768
すると リン酸とADPが
ここから放出される
74
00:07:14,768 --> 00:07:20,774
放出されると
最初と同じ状態になります
75
00:07:20,774 --> 00:07:25,111
また次のATPが来ると
同じことがどんどん繰り返されていく
76
00:07:25,111 --> 00:07:28,782
どんどんATPを分解しながら
77
00:07:28,782 --> 00:07:31,651
ミオシンの頭部は首を振りながら
78
00:07:31,651 --> 00:07:36,222
アクチンの違う場所に移動して
引き寄せてということを繰り返して
79
00:07:36,222 --> 00:07:40,193
筋収縮を起こすと
考えられています
80
00:07:40,193 --> 00:07:45,465
これは色々な説があって
81
00:07:45,465 --> 00:07:48,501
例えば この図では
82
00:07:48,501 --> 00:07:53,807
一度離れて また結合するところが
隣のアクチンに結合していますが
83
00:07:53,807 --> 00:07:55,909
必ずしもそうではなくて
84
00:07:55,909 --> 00:08:00,13
かなり離れたところに
結合するという説もありますし
85
00:08:00,13 --> 00:08:03,450
少し戻ることもある
という説もあって
86
00:08:03,450 --> 00:08:07,754
本当に 首振り運動をしているのか
ということは
87
00:08:07,754 --> 00:08:10,90
まだ完全には
解明されていないのですが
88
00:08:10,90 --> 00:08:14,661
基本的には
このような仕組みと考えられています
89
00:08:14,661 --> 00:08:17,664
皆さんのアクトミオシンは
この状態です
90
00:08:17,664 --> 00:08:21,101
ここにATPを入れると
ぱっと離れます
91
00:08:21,101 --> 00:08:26,6
離れるのですが
離れるとミオシン分子
92
00:08:26,6 --> 00:08:29,309
こういう形のものが自由になります
93
00:08:29,309 --> 00:08:31,244
(ミオシン分子が)
溶媒の中に分散する
94
00:08:31,244 --> 00:08:33,346
(溶媒は)低塩濃度になっています
95
00:08:33,346 --> 00:08:35,348
(溶媒が)低塩濃度になっていると
96
00:08:35,348 --> 00:08:39,853
ミオシン分子は
尾部の部分がお互いに引き合って
97
00:08:39,853 --> 00:08:45,625
結合して
ミオシンフィラメントという束を作ります
98
00:08:45,625 --> 00:08:52,465
束を作ったうえで 頭部の部分が
(たぐり寄せる)反応を続けます
99
00:08:52,465 --> 00:08:55,568
ということは
アクチンフィラメント
100
00:08:55,568 --> 00:09:00,807
これはずっとミオシンが離れずに
この構造のままですから
101
00:09:00,807 --> 00:09:02,208
ミオシンフィラメントが
102
00:09:02,208 --> 00:09:07,914
アクチンフィラメントをたぐり寄せるように
滑っていくということになります
103
00:09:07,914 --> 00:09:13,653
アクチンフィラメントはものすごく長い
1μm くらいあって
104
00:09:13,653 --> 00:09:16,156
それがたぐり寄せられて
105
00:09:16,156 --> 00:09:18,158
そのアクチンフィラメントには
106
00:09:18,158 --> 00:09:21,661
また別のミオシンフィラメントが結合していて
また同じことを繰り返します
107
00:09:21,661 --> 00:09:26,366
(最初は)やや不溶化したような
濁った液のような状態なのですけども
108
00:09:26,366 --> 00:09:31,638
(ATPを入れると) その濁り自体が縮んでいくような
現象が観察されます
109
00:09:31,638 --> 00:09:34,641
それが超沈殿ということになります
110
00:09:34,641 --> 00:09:39,279
(超沈殿は) 条件によって
うまくできたり できなかったりします
111
00:09:39,279 --> 00:09:48,288
2、3分ではっきり観察できる人もいれば
15分くらいかかる人もいます
112
00:09:48,288 --> 00:09:51,791
全く 超沈殿を観察できない
という人もいます
113
00:09:51,791 --> 00:09:56,629
例えば (溶媒の)塩濃度が0.1M KCl
ではなかったりすると
114
00:09:56,629 --> 00:09:59,632
超沈殿が 起こらなくなります
115
00:09:59,632 --> 00:10:05,105
それからタンパク質の濃度も
高い方がうまくいきます
116
00:10:05,105 --> 00:10:11,644
濃度が低い人は
うまく超沈殿が観察できないこともあります
117
00:10:11,644 --> 00:10:22,622
不溶性を満たす条件で こういう反応が出るので
再現性が良くないところが 難しい所になります
118
00:10:22,622 --> 00:10:28,995
試してみて観察記録をつける というのが
今日の講義です