Perfilado de sección

    •  この研究は、近畿大学動物研究・生命倫理委員会(許可番号:KAAG-30-001)の特別な承認を受け、「研究動物の世話と使用に関する指導原則」に厳密に則って実施されたものです。

    • 遊泳運動のシミュレーション

       滋賀県の琵琶湖でビワマス(Oncorhynchus sp.)を捕獲し、1匹の試験魚として研究に使用した(表1)。試験魚は、循環式水槽(PT-110(改良型)、容積:0.396 m3、観察部:1箇所)で1点泳がせた。幅 1.1m,深さ 0.3m,高さ 0.2m 株式会社西日本流体工学研究所)内で泳がせ,水槽上部からデジタルビデオカメラ(HDC-TM750,パナソニック株式会社)により 60fps で記録した。


    • 表1. 試験魚のパラメータ

    •  撮影したビデオデータをもとに、魚体上の鼻先から尾鰭の先端までの13点の時系列2次元位置座標を求めた。座標の抽出には、研究室で開発したソフトウェアを使用した。体軸上の点は、映像から位置が特定できる魚体上の点から設定した。各点は、鼻先(a)、目(b、c)、胸鰭基部(d、e)、胸鰭後端(f、g)、背鰭付け根(h)、背鰭後端(i)、脂鰭付け根(j)、尾鰭付け根(k)、尾鰭後端(l、m)に割り振られた。さらに、b-c, d-e, f-g, l-mの中点を体軸上の点、すなわちそれぞれn, o, p, qとみなした(図1)。尾びれ後端については、尾びれの上端と下端の中点を尾びれ先端の位置とし、尾びれ後端は、尾びれの上端と下端の中点を尾びれ先端の位置とした。


    • 図1. 体軸上の点

    •  体軸上の各点の2次元位置座標から体軸に沿った振幅を計算し、体軸上の進行波の周波数と波長を求めた。

    •  平石ら[22]はニジマスの遊泳運動を以下のように表現している(式1〜3)。

       (1)

       (2)

       (3)

    •  ここで、h(x,t)は魚体断面の進行方向に垂直な方向の変位、x(BL)は魚の進行方向と平行で反対側にある体長上の鼻からの距離、t(s)は時間、fは周波数、λ(BL)は進行波の波長である。また、a、b、c、dは遊泳運動の形状を表すパラメータである。体軸上の位置xと振幅の関係は、aebxとcedxという2つの指数関数の和で表すことができる。遊泳の推力は主にcedxで表される部分である尾の振動によって発生し、尾は頭部付近の振幅の影響をわずかに受ける一方、頭部付近の振幅は尾の振幅の影響を受けるため、cedxのxの値から頭部付近の値を代入して得られる値を引いたものがaebxである。式2の未知パラメータcとdを求めるため、x>0.4の振幅値を対数変換し、最小二乗法で線形近似した。x < 0.25の部分では,x < 0.25の点でのcedxの値を求め,その値を振幅値から引き,同様に近似することにより,式2の未知定数a,bを推定した。

    • ソリタリースイミングのCFD解析

       CFD 解析に用いたモデルは,左右対称の翼を持つ長方形 の板状モデルである。魚類モデルの長さ(L)、高さ、最大翼厚は、ビワマスの実測データと等しくなるように、NACA4桁シリーズの翼(図2)をベースに、それぞれ43.9、8.93、4.51cmとした。モデル作成には3次元コンピュータ支援設計(CAD)ソフト(AutoCAD 2017、Autodesk)を使用した。


    • 図2. CFD解析に使用したモデル

    •  非圧縮性粘性流体のNavier-Stokes運動方程式は以下のように表される(式4、式5)。


       (4)

       (5)

    •  これらの方程式の解は、連続式(式4、式5)を満たすことで得ることができる。式中、Uは速度ベクトル、tは時間、Fは単位体積あたりの力ベクトル、ρは流体密度、pは圧力、μは粘性係数である。

    •  本研究では、3次元熱流体解析システム(SCRYU/Tetra V14, Software CRADLE CO., LTD)を用いて、Navier-Stokes方程式と連続方程式を有限体積法で数値的に解き、物理量を算出した。

    •  魚類モデルにおける要素の移動条件として、実際のビワマスの遊泳運動から導き出された遊泳運動関数を使用した。要素移動条件とは、移動する物体や境界形状が変化する物体の流体解析を行う際に、任意ラグランジュオイラー(ALE)法を用いて、要素を構成する接点を体積領域に対して移動させる条件である。本解析では,導出した遊泳運動関数を用いて,遊泳運動中の魚体モデル の各要素の節点を移動させ,CFD 解析を実施した。

    •  独泳のCFD解析では,以下の条件を設定した。解析領域は,魚体モデルの左右の形状変化,背水の 視点,壁の影響を考慮して,軸方向 5.0L,左右方向 4.0L,上下方向 2.0L とした。Lは魚体模型の全長になる。

    •  魚類模型の前面から5段階の流れの定常流を流入し、後面から圧力と流れ方向を一定にして流出させた。流入速度は生魚実験で使用した速度と同じで、生魚実験のそれぞれで記録された各速度での遊泳運動から遊泳運動関数を算出した(図3)。


    • 図3. ソリタリースイミングの CFD 解析のための解析領域。(a) 上面図、(b) 側面図。

    •  壁面条件は,解析領域の流入面,流出面を除く全ての面において,フリースリップで摩擦応力の影響を受けないものと仮定した。流体温度は 20℃,流体密度は 998kgm-3,粘性係数は 1.02×10-3 (Pa・s),熱伝導率は 0 と仮定した。3 次元魚体モデルのレイノルズ数およびストローハル数は,それぞれ 2.60×105 および 0.34 とした。乱流の影響を考慮するために,低レイノルズ数から高レイノルズ数までの非定常乱流の解析に適した AKN k-ε モデルを使用した。

    •  CFD 解析では、解析領域を小さな要素に分割し、それぞれ の流体方程式を解いて解を求める。図4に今回の CFD 解析におけるメッシュ分割を示す。テトラ要素サイズは 2~64mm の範囲とし,魚体モ デルに近づくにつれて細かくなるようにテトラ要素サイズが 2mm となるようにモデル最近傍要素のサイズを分割している。解析領域の総要素数は 1.20×106 であった。実際の流れでは、壁からの摩擦応力により流体と壁の間に流速勾配が生じ、境界層と呼ばれる薄い流れの層が形成される。この境界層における流速の勾配を表す境界層要素(プリズム層)と呼ばれる魚の表面に平行な層を挿入することで、乱流解析の精度を高めることができる。境界層要素は、魚のモデルの表面を3層で覆うように、変化率1で挿入し、1層目のプリズム層の厚さは0.4mmとした。


    • 図4. 孤立遊泳の CFD 解析におけるメッシュ分割

    •  CFD 解析では,モデル表面上の各要素に作用する流体力 を任意の成分に変換することができる。そのため,魚体モデル表面に作用する流体力のうち,前方 向の成分をスラスト力,逆方向の成分を泳ぐ魚体モデルに作用 する抗力として計算することが可能であり,その結果,魚体モデ ルに作用する流体力を算出することができる。本解析では、魚体モデルに作用する体軸方向の流体力のうち、圧力のスラスト方向成分をスラスト力と定義した。抗力は,圧力の抗力方向成分と摩擦抗力の和と定義した。

    • パラレルスイミングのCFD解析

       解析エリア内に2匹の並列魚モデルを設置し、並行して回遊する際の背水の変化を観察した。2個体の運動時のメッシュの変形による計算の発散を避けるため、重合格子法を採用した。重合格子法では、独立領域と呼ばれるメッシュに従属領域と呼ばれるメッシュを重ね合わせることで、一つの解析空間を表現する。この方法の利点は、領域ごとに運動条件を設定し、複雑な物体の移動や衝突を解析することができる点である。

    •  パラレルスイミングに使用したモデルは、ソロスイミングに使用したモデルと同じ左右対称の翼の断面形状を持つ長方形のプレートモデルである。遊泳運動は、単独遊泳に適用したものと同じ遊泳運動関数を適用した。

    •  CFD解析の条件は以下の通りである。解析領域は,魚体モデルの左右の動きを考慮した大きさ とした(図5)。解析に用いた流入速度は,単独泳法の CFD 解析で求めたものである。このとき,各解析条件で推力と抗力がほぼ均衡するように尾びれ振動の周波数を変化させた。壁面条件は,解析領域内の流入面,流出面を除く全ての面において,フリースリップで摩擦応力の影響を受けないものとした。流体温度は 20℃,流体密度は 998kg/m3,粘性係数は 1.02×10-3(Pa・s),熱伝導率は 0 とし た。3 次元魚体モデルのレイノルズ数は 2.60×105 であった。3次元魚体モデルのストロハル数は0.42〜0.44であった。乱流解析モデルには,低レイノルズ数から高レイノルズ数までの非定常乱流の解析に適した AKN k-ε モデルを使用した。


    • 図5.パラレルスイミングのCFD解析のための解析領域。(a) 平面図,(b) 側面図。

    •  近接から単独遊泳まで同じ解析条件で並行遊泳モデルの個体間距離を比較するため、距離を0.4, 0.6, 0.8, 1.2, 1.6, 2.0L とし、振幅運動の位相が同相と逆相の場合をそれぞれ解析した。入口流速は1.52BL s-1とした。

    •  図6に本解析におけるメッシュ分割を示す。テトラ要素のサイズは2~32mmの範囲とし、魚体モデルに近づいたときに細かくなるようにテトラ要素のサイズが4mmとなるように最も近いモデルの要素のサイズを分割した。境界層要素は、魚体モデルの表面を覆うように8層、変化率1.1で挿入し、第1プリズム層の厚さは0.8mmとした。


    • 図6. パラレルスイミングのCFD解析におけるメッシュ分割

    • 遊泳の効率

       遊泳時の効率を比較するための指標を算出することを試みた。魚類の遊泳効率を評価するために,しばしばFroude効率と呼ばれる指標が用いられる。Hemelrijkらは,Froude効率から群泳の流体力学的な優位性を報告している。

    •  モデル表面に作用する力を構成要素に分解することで、推力と横力を算出することができる。横力のパワーは、尾振り運動の速度の横成分と、魚体モデルの表面に作用する圧力の横成分の積で求めることができる。横方向成分とは、泳ぐ方向(Y方向)に垂直な方向を表す。本研究では、魚体モデルの表面要素に着目した。表面要素に作用する流体力から総力に対する有用力の比を算出した。また、異なる条件を比較するための指標として、遊泳効率を用いた。

    •  CFD 解析で求めた圧力分布を用いて,魚体表面を構成する各要素について,進行方向と横方向に作用する力と速度の内積 を求めた(図7)。これにより,スラスト力と横力を算出し,各条件におけるFroude効率を求めた(式 6~8)。

       (6)

       (7)

       (8)

      ここで、ηは遊泳効率、PTは推力の時間平均パワー、PSは横力の時間平均パワー、FTiは要素あたりの時間平均推力、FSiは要素あたりの時間平均横力、uiは要素の遊泳方向速度、viは要素の横速度である。


    • 図7. 魚体表面の要素にかかる力Fiの分解

      Uは流入流速、V0は要素の速度、uiは要素の進行方向速度、viは要素の横方向速度、FTiは要素に作用する推力、FSiは要素に作用する横力である。

    •  Borazjani と Sotiropoulosが示唆したように,推力と抗力の値が釣り合った後に,遊泳効率を評価した。