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    •  マルチプルコアラーの性能を活かした高品質な試料・実験データを得るためには、スムーズに採泥作業を進めたうえで、採泥器が船上に揚収された後も、採取されたコアを素早く処理して実験等に用いることが求められます。従って、作業者はそれぞれに割り当てられた作業の手順をあらかじめ理解したうえで作業に臨まなければなりません。また、試料をいつどこで採取したか明らかにしておくことも重要です。ここでは、マルチプルコアラーを用いた採泥作業を()観測準備(2)海中投入、()着底、()揚収、()試料の回収(6)試料の処理、(7)観測の記録に分け、それぞれについて解説します。

    • .観測準備

       図7の通り組み立てた採泥管ユニットを、採泥器の昇降部に取り付けます。アームの上下の蓋を開いてトリガにセットします。採泥管ユニットの取り付けとトリガへのセットの様子を動画「採泥器ユニットの取り付け・セッティング方法」に示します。


    •  

      図7 採泥管ユニットの組み立て方法

      a)アームの下蓋を引き上げ、採泥管を挿し込みます。

      b)コアサポーターの掛け金をアームにはめ込み、採泥管を固定します。

      c)コアサポーターが脱落しないよう、掛け金にビニールテープを巻きます。


    • 2.海中投入

       クレーンで採泥器を吊り上げ、ウインチのワイヤを繰り出して海中へと投入します。この時、甲板上で昇降部が作動しないように取り付けてあるストッパー金具を取り外します。これらの作業中に船の動揺によって採泥器が空中で振れないよう、採泥器が海中に投入されるギリギリまでロープで抑えながら作業を行います。採泥器を50 mの深さに沈めたところで一度ウインチを停止し、ワイヤにピンガー1を取り付けます。ワイヤの繰り出しを再開し、採泥器を海底まで降下させていきます。


    • 3.着底

       採泥器を海中に投入したら、図8に示す手順で採泥器を着底させます。水深と繰り出したワイヤの長さ、ピンガーの信号を頼りに、採泥器の水中高度(海底までの距離)を確認しながら毎秒1 mの速度でワイヤを繰り出します(図8-①)。採泥器が海底から50 mに達したら繰り出しを停止し、そのまま3分間待機して採泥器の姿勢を安定させます(図8-②)。待機後、低速(毎秒0.3 m)でワイヤの繰り出しを再開します(図8-③)。着底を確認してから30秒経過した後にウインチを停止します(図8-④)。テンションメーター2でワイヤにかかる張力の低下を検出した時点を着底と判断します。着底後、採泥器の昇降部はワイヤが繰り出されている間、ハイドロリックダンパーが作動して海底に採泥管が降下、貫入していきます。底質が砂質であると採泥管が貫入し終えるまでの時間がさらにかかるのでウインチを停止した後に数十秒間待機することがあります。採泥管を引き抜く際には、着底させるときと同様に低速でワイヤを巻き上げます(図8-⑤)。ワイヤを巻き上げていくと徐々に張力が上昇していき、一定の張力が観測されるようになったところで採泥器の離底が確認できます。その後、巻き上げ速度を上げて速やかに採泥器を船上に回収します(図8-⑥)

       着底させる時に傾いた状態にならないよう、また着底した後に引きずられることのないよう、採泥器は船の真下にある状態にしなければなりません。従って、採泥器を降下させている間はもちろんのこと、着底してから離底するまでの間も、ワイヤが真下を向いた状態になるよう潮流等を考慮しながら操船します。


    • 8 海底近くでのマルチプルコアラーの動作


    • 1 ピンガー

       一定の間隔で音波信号を発信する音響機器で、海底高度(海底からピンガーまでの距離)の計測に用いられます。この機器を使用して採泥器と海底との距離を捉えることで安全・確実に採泥を行うことができます。

      「リンク・・ピンガー

       

      2 テンションメーター

       ワイヤにかかる張力(重量)を計測する機器です。張力の増減を捉えることで採泥器の離着底を把握することができます。


    • 4.揚収

       海面上に採泥器があがってきたらクレーンで甲板上に移動させ、ストッパーを差し込んでから着地させます。採泥器への波の衝突や船の動揺によって、空中に吊り上げられた採泥器が大きく振れることがあるので、投入時と同様にロープでしっかりと抑えながら作業を行います。採泥器を船体に接触させたり、甲板上への着地に衝撃があると、採泥器の破損あるいは貴重な試料の損失につながります。


    • 5.試料の回収

       採泥器が揚収されたら、アームから採泥管を取り外します。この時、速やかに採泥管の上下に栓をして密閉します。作業には図9に示したゴム栓とヘラを用います。ゴム栓は使用する採泥管の内径に適合するサイズのものを選びます。まず、アームの下蓋と採泥管の間にヘラを差し込み、試料が漏れ出てこないようヘラを採泥管の下面に押し当てながら、アームの下蓋をあけます。次に採泥管の下面にゴム栓を押し当てた状態でヘラを引き抜き、ゴム栓を採泥管に押し込みます。そして、採泥管をアームから取り外した後、採泥管上面にもゴム栓をします。また、試料を持ち運ぶ際に上下のゴム栓が脱落しないようにビニールテープを巻いて固定します。これらの作業中、表層堆積物が巻き上がらないように慎重な作業が求められます。

    • 9 (a)ゴム栓  (b)ヘラ

    • 6.試料の処理

       採取した堆積物試料(コア)は研究目的に応じた処理が施されます。採泥管そのものを用いて堆積物と直上海水の相互作用に関する実験が行われることもありますが、コアを1-数㎝単位に切り分け、堆積物表層における物質の鉛直分布を調べるために用いることもあります。ここでは「コア抜き器」(図10)を用いて採取したコアを層別に分配する方法を説明します。

       コア抜き器は採泥管の内径に合わせたピストンを土台となる板の上に固定した器具です。ピストンによって少しずつ押し出したコアを層別に切り分けます。押し出すコアの厚さを正確に調整するためにアジャスタを備えたものもあります。図10にアジャスタ付きのコア抜き器を示します。このコア抜き器はピストンの軸の外側とアジャスタの内側にねじ山が作られていて、それらを噛み合わせた「ボルト」と「ナット」の関係にあります。なので、アジャスタを回転させるとアジャスタそのものがピストンの軸に沿って上下に移動できます。図10に紹介するコア抜き器の場合はアジャスタのハンドルを時計回りに回すと1回転あたり4 mm下方へ移動する間隔でねじ山が作られています。反対にハンドルを反時計回りに回せば同様の距離を上方へ移動します。つまり、このアジャスタのハンドルを時計回りに2.5回転して下がったアジャスタと共に採泥管を1㎝下方へ移動させると採泥管の上部から堆積物を1㎝押し出すことができます。


    • 10 コア抜き器 (a)ピストン (b)アジャスタ


    •  コア抜き器を使った試料の切り分けは図11に示す順序で行います。図11中の番号に順じてコア抜き作業を説明します。①、採泥管の下側のゴム栓を緩め、ゴム栓と採泥管の隙間にヘラを挿し込みます。②、採泥管の下をヘラで塞いだままピストンの上部に乗せてからヘラを抜き取ります。③、採泥管にピストンを押し込んだら、上側のゴム栓を取り外します。④、シリコンチューブやシリンジを用いて海水を抜き取ります。この海水を分取し、直上海水として分析に供することもあります。⑤、採泥管を押し下げると、ピストンによって堆積物が相対的に押し上げられます。堆積物表面が採泥管の上面と同じ位置に来るまで採泥管を押し下げます。⑥、ハンドルを反時計回りに回して、採泥管の下面までアジャスタを上昇させます。⑦、ハンドルを時計回りに回して、任意の長さの分だけアジャスタを降下させ、併せて採泥管を押し下げると採泥管の上部から任意の長さの試料が押し出されます。⑧、押し出した試料をヘラで切り取って容器に移しとります。堆積物を押し出しては切り取るという作業を繰り返し、堆積物表層から順に試料を切り分けていきます。


    • 11 コア抜き作業の手順


    • 7.観測の記録

       CTD観測などと同様に採泥においても試料採取時の船位や水深などの地理的な情報に加え、繰り出したワイヤの長さや採取された試料の概要、試料の分配、行先などを記録するのは研究・調査を行う上で最も基礎的なデータであり、重要な情報となります。そこで、採泥する際の作業記録に特化した観測野帳を用意する機関も少なくはありません。

       図12に北海道大学「おしょろ丸」においてマルチプルコアラーを用いた採泥観測で使用されている観測野帳(Multiple Corer Sampling Log Sheet)に記入例として、ある架空の観測結果を記載したものを示します。ここでは「C000」次航海の202177日に観測点「St.3K」おいて2回の観測を行った場合を想定しています。観測の事前に観測地点名(Station)や日付(Date(UTC))、観測指示者/オペレーター(Operater)の名前を記入します。また、同じ点で何度も観測を行う際は観測作業そのものや採取された試料の取り扱いにおいて混乱しないように、観測作業に対して名称を定めます。それをサンプリング名(Sampling Name) の欄に記載します。また、左下の表面海水温、天候、時間帯の情報もあらかじめ記します。その後、観測作業が開始されたら開始時刻とその時点での船位の情報を記入します(Sampling Start)。観測が進んで、採泥器が着底した時の時刻、船位、水深、ワイヤ情報を記入します(Bottom touch)。採泥器が船に揚収された時にも同様な情報を記入します(Sampling End)。なお、採泥観測の際にワイヤが真っすぐ下に向かっていれば採泥器は船の真下にあると推測されるので、「Bottom touch」に記録した船位がそのまま採泥器が着底・採泥した海底の位置と推定されます。一方で、風や潮流によって船の位置が変化し開始位置(希望観測点)からずれてしまうことがあります。このこともこの観測野帳から後に確認することができます。

       マルチプルコアラーは最大で8本のコアが採取されるのでそれぞれに番号(Core No.)を割り振り、どのような状態で採取されたかを記録します。まず、採泥管ユニットが正常に作動したかどうかを見ます。しっかりと上下の蓋が閉鎖し、採泥されていれば「Check」欄に「〇」、採取されたはずの堆積物が脱落したり直上海水が隙間から抜けてしまったりしてうまく採取できてなければ「×」とします。「Memo」の欄にはコアの様子(例えば、底生生物が採取されている、堆積物の色や直上海水が濁っているかどうかなど)、コアの利用方法や試料の行先などを記入します。さらに、「Remarks」の欄にはこの観測全般において特記事項を記録します。ここには再度同じ場所で観測をする時のために底質の情報を記録しておいてもよいでしょう。


    • 12 マルチプルコアラー観測野帳(記入例)