北海道大学水産学部おしょろ丸海洋調査部 今井圭理、小熊健治、澤田光希
マルチプルコアラーは柱状採泥器の一種で、あたかも海底の様子をそのまま切り取って船上に持ち帰ってきたかのような試料を得ることができます。
海水中には生物の遺骸や排泄物、微生物が凝集してできた粒子などが漂っており、これらは浮力を失うと徐々に沈降していき、やがて海の底へと降り積もります。粒子が海底に堆積する現象は海水中から物質が除去される作用と同様に考えられ、反対に堆積した物質の一部が分解作用を受けて再び海水中に放出されます。こうした海水と堆積物との物質のやりとりの様子(海水-堆積物間相互作用)を明らかにすることは、海洋における物質循環の仕組みを解明するうえで必要不可欠となります。ところが、海底の表面に降り積もった物質の層は非常に柔らかく、わずかな力が加わっただけでその構造が乱されてしまいます。そこで、採泥管をゆっくりと堆積物へ貫入させる機構を備えたマルチプルコアラーは境界面を乱さずに堆積物とその直上の海水を採取することのできる採集具として現代の海洋研究に欠かせない存在となっています。また、海底の表層に生息する生物をその生息場所と併せて採取できることから、底生生物の生態に関する研究にも利用されています。
本コースでは、マルチプルコアラーの機器構成や仕組み、また実際の採泥作業について詳しく説明します。