高揮発性のVOC(フロン類やイソプレン、クロロメタンなど)から吸着性のあるVOC(ブロモホルムやクロロヨードメタン、ジヨードメタンなど)まで多成分を同時にオンライン測定するのを目指したので、シリコンメンブランチューブ式の気液平衡法を採用した。
測定手法
大気と表面海水中のハロカーボン分圧を交互に測定するため、自動大気濃縮器-ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)の技術を応用した。これは国立環境研究所が大気中のVOCを離島にて無人でモニタリングするシステムを基にしている(Yokouchi et
al., 2006)。自動大気濃縮器には太陽計測器社製のカスタムメイド品を使用して、GC-MS(Agilent社製5973/6890)と連動させている。まず、研究船の船底から海水を常時汲み上げて表面海水試料に供した(研究用海水)。海水に溶けているVOCを連続的に抽出するため、シリコンメンブランチューブ式の気液平衡器を開発した(Ooki
and Yokouchi, 2008)。システム全体の概要を図1に示し、以下に気液平衡器の構造を説明する。直径2mm、長さ10mのシリコンチューブ(富士システムズ社製, material Q7-4780, 80SH)を6本束ねてポリ塩化ビニル(PV)パイプの中に通した。シリコンチューブ内に純空気を流し、シリコンチューブの外側(PVパイプの内側)に試料海水を常時流した。シリコンチューブ内の圧力を1.4気圧、空気の流速を25mL min-1に保った。圧力値が分圧に比例するので、高精度な圧力制御が必要である。本システムではピエゾバルブ式の圧力コントローラ(堀場エステック社製, PV-1000)を使用した。大気圧よりも高くした理由は、圧力制御を高精度にするためと、万一シリコンチューブが破損した場合、シリコンチューブから分析計側に海水が浸入するのを防ぐためである。

試料海水中のVOCはシリコンを透過してチューブ内の空気側に移動する。シリコンチューブと海水の接触時間が十分長ければ、海水と空気中のVOC分圧は平衡に達する(平衡状態の確認試験を次節で述べる)。その試料空気を自動大気濃縮器に導入してVOCを2段階でクライオフォーカスしたのち、GC-MSでハロカーボンを検出した。また、屋外空気を船内実験室まで常時吸引して大気試料に供した。大気の吸引ラインは数十メートルにも及ぶため、大気ラインでのVOCの吸着ロスを極力抑える必要がある。そのため、一旦大流量ポンプで吸引して(30L/min)、分析計の直前で大気ラインを分岐してメタルベローズポンプに導入した。メタルベローズポンプでは大気試料を吸引・加圧しながら大気濃縮器へ常時導入した。大気試料中のハロカーボンについても同様にGC-MSシステムで検出した。大気濃縮器に常時接続されているサンプルラインは、気液平衡器ライン、大気ライン、標準試料空気ライン(2系統)、ヘリウムライン(ブランク測定)の計6系統でコンピュータ制御で切り替えることができる。大気濃縮器に導入した試料空気中のVOC分圧を定量するため、混合VOC標準空気中(ハロカーボン類100pptv – イソプレン 10ppb)のVOCを同様に測定した。混合VOC標準空気に含まれないVOC成分(CH2ClI, C2H5I)については、CH2ClIとC2H5I, C2Cl4の原液をメタノールに希釈した混合標準溶液を加熱気化して同様に測定し、C2Cl4に対するCH2ClIとC2H5Iのレスポンス比から定量した。定量成分は、クロロメタン(CH3Cl),ブロモメタン(CH3Br), ヨードメタン(CH3I),ジクロロメタン(CH2Cl2), ジブロモメタン(CH2Br2),トリクロロメタン(CHCl3),トリブロモメタン(CHBr3),クロロヨードメタン(CH2ClI),ヨードエタン(C2H5I)、CFC-11(CCl3F)、HCFC-22(CHClF2)である。
