單元大綱


    •  みなさんは、生態学(英語ではecology)とはどんな学問だと思っているでしょうか。生態学は、「生物」と「環境」の相互作用を解明する学問と定義できます。たとえば、ライオンの生態というと「どのように餌を捕まえて、群れは何頭くらいで…」などといったライオンの暮らしかたを想像する人が多いでしょうね。一方で、ecoとかecologyというと、自然保護や環境問題を思い浮かべる人が多いと思います。このように「生態」は生物、「ecology」は環境をイメージさせる言葉ですが、実際の生態学は、これら2つのイメージを合わせた学問分野といえます。
       この定義でもうひとつ大事なことは、生物には階層構造があるということです。生物は、DNAや遺伝子、細胞、組織、器官などさまざまな階層で研究されていて、生態学は、生物を個体、個体群、群集という階層に注目して研究します。個体群とは、同じ地域に棲む同一種の集団のこと(たいてい、群れや家族より大きく、種よりも小さい)、そして群集とは同じ地域に棲む生物全体を指します。


    •  環境は、「生物を取り巻くもの」を指します。環境という言葉の意味は、生物の階層に応じて変わります。全ての生物を包含する群集という階層では、環境には無機的環境要因だけが含まれます。生物は全て群集に含まれているからです。一方、個体群という階層では、他の生物も環境に含まれます。そして、個体という階層で研究するときは、兄弟や親子、同性個体や異性個体も環境の一部です。

         行動生態学は個体をおもな対象とした生態学です。捕食者による餌の捕まえ方や、被食者による防衛行動、親子関係や、メスをめぐるオス同士の闘いなどは、すべて「生物と環境の相互作用」であり、行動生態学における研究対象なのです。


    •  生物と環境が影響を及ぼし合うことを相互作用といいます。例えば、部屋が暑いときに上着を脱ぐこと、人の体温によって部屋がさらに暑くなることは、人と室温の相互作用の例です。ここで挙げた写真も相互作用の例です。左から順に、配偶関係(オス(大きなヤドカリ)がメス(小さなヤドカリ)を連れて歩いている)、親子関係(親(大きなイソギンチャク)が腹部に子を付着させている)、捕食・被食関係(扁形動物のヒラムシがブドウガイを捕食している)、私の犬(私に向かってニッコリしている)です。対象としている生物が環境からどのような影響を受けて、そして環境にどのような影響を及ぼしているのかを調べることが、「相互作用を研究する」という言葉の意味です。

       生物学の多くの分野が、生物の中身を調べているのに対して、生態学は生物と「外」の関係を調べているのが特徴と言えるでしょうね。