章节大纲

    •  北海道の捕鯨関係者の間では、いわゆる「ツチクジラ」には通常のツチクジラと比べて色が暗く小さい「クロツチ」あるいは「カラス」と呼ばれるものがいると言われていましたが、その正体はこれまで明らかになっていませんでした。

       北海道大学松石研究室が事務局をつとめる漂着鯨類調査グループ「ストランディングネットワーク北海道」(SNH)が、2008年以降収集した北海道各地に漂着したアカボウクジラ科の3個体は、噴気孔の形態などツチクジラ属の特徴がありましたが、頭部をはじめ、外部形態が従来知られているツチクジラとは異なることが指摘されました。Kitamura et al. (2013) は、この3個体と既知のツチクジラ67個体からそれぞれ抽出したDNAシークエンスと、文献的に明らかにされていたミナミツチクジラのDNAシークエンスを比較考察して、明らかな相違を確認、既知種とは異なるツチクジラ属の未知種存在の可能性を提起しました。その後、Morin et al. (2017) は、同様の遺伝的組成を持つ未知種個体がアリューシャン列島にも棲息していることを報告しました。この未知種を新種として記載するには、その形態学的特徴を把握し、総合的な解析によってツチクジラ属の既知の二種(ミナミツチクジラおよびツチクジラ)との関係を明らかにすることが必要でした。