タンパク質濃度の測定
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生体成分を定量する方法は各種存在するが、比色法は簡便なため、広く用いられている。ここでは、タンパク質の比色定量法であるビウレット法並びにLowry法を実施し、基本操作を習得する。
溶液が光を吸収する度合いを表す尺度を吸光度と呼び、以下の式で表される。
A = -log ( I / I0 ) = e × c × l (式4)
A: 吸光度 e: モル吸光係数
I0: 溶液に入射する光の強度 c: 溶液のモル濃度
I: 溶液を透過した光の強度 l: 溶液の光路長(光を吸収する部分の距離)
I / I0: 透過度(T)
これをランベルト-ベールの法則という。この法則は、吸光度が濃度に比例することを意味している。また、あらかじめ濃度のわかっている幾つかの標準溶液について吸光度を測定し、eを求めておけば、濃度の不明な試料の濃度を吸光度から求められることを示している。特定の波長の光について、吸光度を実測する装置が分光光度計である。ビウレット法はタンパク質の定量に広く用いられている。ペプチド結合に関わる窒素原子が強塩基性条件下でCu2+に配位結合し、赤紫色の色素を形成することを利用したものであり、アミノ酸数が3以上のペプチドまたはタンパク質であれば、その種類によらず一定の発色率を示すのが特長である。
図6 ビウレット法における発色の原理
発色はR1からR4の構造の影響を受けない
ビウレット法は、0.5から5 mg/ml程度のタンパク質濃度を測定するのに適しているが、より希薄なタンパク質溶液の濃度測定には、Lowry法が用いられる。Lowry法においては、ビウレット法と同様な原理による発色に加え、フェノール試薬中に含まれるリンモリブデン酸(リン酸とモリブデン酸の複合体)やリンタングステン酸が、タンパク質に含まれるチロシン、トリプトファン、システイン等の還元性を持ったアミノ酸によって還元され、青藍色の色素を形成することを利用している。感度はビウレット法の数十倍高いが、還元性アミノ酸の含有率はタンパク質によって異なるため、発色率がタンパク質の種類によって異なる点に注意が必要である。
ビウレット法
(1)ビウレット試薬の調製(各班で100 mL調製)
(a) 0.6 gの酒石酸ナトリウムカリウム(四水和物)を薬包紙に取り、100 mlのビーカーへ移す。薬包紙に付着した固体は洗ビンの純水でビーカーへ洗い落とす。これに純水を加えて約40 mLとし、ガラス棒で攪拌して溶解する。
(b) さらに3 gの水酸化ナトリウム(潮解性・取り扱い注意)を加えて、攪拌・溶解する。
(c) 0.15 g の硫酸銅(五水和物)を計り取り、別のビーカーで約40 mLの純水に溶解する。
(d) (c)で調製した溶液を(b)のビーカーへ加えて攪拌する((c)のビーカーは少量の純水で洗浄して、洗液はすべて(b)のビーカーへ移すこと)。
(e) メスフラスコに移して純水で100 mLにメスアップする。
(f) プラスチック容器に移して室温保存
※試薬の溶解の順序を守らないと、溶解しにくかったり、不溶化が起こったりして失敗します。
(2)比色分析
(a) ウシ血清アルブミンを20 mM リン酸ナトリウム緩衝液に溶解した標準溶液を作成する(血清アルブミン約0.5 gを薬包紙に精秤して100 mLのビーカーへ移し、さらに、0.5 M リン酸ナトリウム (pH 7.0) 4.0 mLと純水を加えて溶解し、メスフラスコで100 mLにメスアップする。正確な濃度を計算しておく)。
(b) 5本の試験管にそれぞれ、0、0.2、0.4、0.6、1.0 mLの標準溶液をメスピペットまたはマイクロピペット(1000 mL)で取る。
(c) さらにそれぞれに、1.0、0.8、0.6、0.4、0 mLの20 mM リン酸ナトリウム (pH 7.0) (別途0.5 M溶液をメスフラスコで希釈して調製する)を加える(それぞれの試験管は、ブランクテスト、標準液の5、2.5、1.667、1倍希釈液となる)。
(d) 各試験管に4.0 mLのビウレット試薬をメスピペットで加え(安全ピペッターを使用すること)、直ちに良く振り混ぜる。
(e) 室温で30分以上放置する。
(f) 分光光度計を準備する(540nmに波長設定、0および100%透過度の校正)。
(g) 発色の弱いものから順に、ガラスセルに移して吸光度を測定する(試料を変える時は、共洗いを行う)。
(h) 縦軸に吸光度、横軸にアルブミン濃度 (mg/mL) を取ったグラフ(検量線;図7)を作成し、直線の傾きを算出する(0.05程度になるはず)。※この検量線を作成しておけば、未知試料のタンパク質濃度を求めることができる。(i) 緩衝液として、20 mM Tris-HCl (pH 7.5)を用いた測定も行い、検量線がどのように異なるか比較せよ。
図7 ビウレット法の検量線
Lowry法
(1)試薬の調製
試薬①2% Na2CO3、0.1 M NaOH
試薬②0.5% 硫酸銅(五水和物)、1% 酒石酸ナトリウムカリウム(四水和物)
(必要量の硫酸銅および酒石酸ナトリウムカリウムを別々の容器で純水に溶解し、それらをメスフラスコに移して混合すること)
試薬③測定の当日に①と②の試薬を50:1の体積比で混合したもの
フェノール試薬:市販品を純水で2倍希釈して調製したものを用いる(調製済のものを提供します)
(2)比色分析
(a) 20 mM リン酸ナトリウム (pH 7.0) に0.5 mg/mlとなるようウシ血清アルブミンを溶解した標準溶液を調製する(ビウレット法で作成した標準溶液を、メスフラスコを使用して、緩衝液で10倍希釈するとよい)。
(b) 5本の試験管に、標準溶液を0、0.2、0.4、0.6、1.0 mL取る。
(c) それぞれの試験管に20 mMリン酸ナトリウム (pH 7.0) を1.0、0.8、0.6、0.4、0 mL加える。
(d) 各試験管に試薬③を5.0 ml加え、良く攪拌する。
(e) 室温で10分以上放置する。
(f) 各試験管にフェノール試薬0.5 mlを加え、直ちに激しく攪拌する。
(g) 室温で30分以上放置した後、750 nmの吸光度を測定する。
(h) ビウレット法と同様に、タンパク質濃度と吸光度の関係を表す検量線を作成せよ。
(j) 緩衝液として、20 mM Tris-HCl (pH 7.5) を用いて結果を比較せよ。
【課題】
検量線の傾きは測定の感度を表している(傾きが大きいほど感度が高い)。傾きを算出し、Lowry法はビウレット法に比較して何倍高感度か計算せよ。