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    •  環境分析化学では、主となる沈殿が不純物を含んで成長する“共同沈殿”の原理を利用して、環境試料から対象成分を回収することがあります。

       

      例えば、

      工業排水から重金属を除去する際の、鉄の水酸化物による共同沈殿法


       工業排水に硫酸鉄(FeSO4)を入れて、水中に多量のFe2+を溶存させる。これにアンモニア水や水酸化ナトリウムを添加してアルカリ性に保ってやれば、FeO(OH)のコロイドができます。このとき、溶存する微量な金属元素も水酸化物や酸化物の難溶性の超微粒子を形成します。多量のFeO(OH)コロイドは、他元素の水酸化物微粒子を巻き込んで沈殿(共同沈殿)します。この沈殿を回収すれば、工業排水から重金属を効率的に除去することができます。

       


      海水からの放射性物質の除去や海洋観測への応用


      鉄共沈法
                これは、海水中の微量元素(ウランや希土類など)を濃縮するのにも用いられてきた方法です。以下の図に、鉄共沈によって回収できる元素を示します。希土類(LaLu)からウラン(U)、プルトニウム(Pu)まで回収できるのです。そんなこともあり、福島第一原発の汚染水処理では放射性物質の除去の初段階にも鉄共沈法が用いられています。なお、鉄の水酸化物が使われる理由は、この沈殿の比表面積が広く、吸着容量が大きいからです(海と湖の化学, 藤永太一郎[監修], 京都大学出版会)。