セクションアウトライン

    • 検出限界と定量下限

      この二つの言葉は、厳密に使い分けて、内容を理解しなければならない。将来、分析化学に携わらないにしても、理系人ならば知らなくてはならない大事なことを含んでいる。

       

      検出限界(もしくは検出下限):ブランク試料を測定したときの信号強度に対して、未知試料や標準試料を測定したときの信号強度を有意に区別できる限界のことである。("有意"とは、意義の有る、という意味の統計学用語である。英語で言うと、significantly。統計用語なので、統計値(平均値や標準偏差など)を用いて、それを定義する必要がある)

       

      定量下限:未知試料や標準試料を測定したとき対象成分の信号強度を有意に検出したうえで、濃度を求めるのに足りるだけの信頼性を有する下限

      定量上限:濃度を求めるのに足りるだけの信頼性を有する上限。

       

      定量範囲(定量下限から上限までの範囲):検量線に直線性があり、かつ同一試料を繰り返し測定して、ある程度の再現性が保証される範囲。ただし、定量範囲を濃度の低い方と高い方の二つに区切って、それぞれ別の検量線を用いることもある。また、検量線を二次曲線や指数関数で求めることもあるが、この場合は変動が大きくなることもあるので要注意。

       測定の目的に応じて、各分析者が検出限界や定量範囲を決める。その根拠や限界値を報告書にシッカリ記すことが大事である。

       低濃度範囲において、ブランク測定の平均+10σの定量下限の条件をクリアしていれば、それで万事OKとも限らない。先に説明したように、低濃度範囲を拡大表示しても、回帰直線(検量線)上に標準試料のプロットが乗っている必要がある。

       

       もう一つ注意しなくてはならないのは、低濃度範囲では、測定の繰り返し精度が悪いことである。繰り返し精度の良し悪しは、標準偏差/平均(=変動係数)で表される。同じ試料を分析しても、変動係数の範囲で結果がばらつくことを意味する。つまり、分析結果には、それくらいの「誤差」が含まれることを承知する必要がある。