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    •  大型藻類、とくにマコンブなどの褐藻類によるブルーカーボンの効果を明らかにするため、私たちは、褐藻類が持つアルギン酸に着目しました。アルギン酸は、コンブのネバネバです。ここで、海洋のアルギン酸研究、それに関連して、海洋のネバネバ物質の研究について、少し紹介します。

       結論から言うと、海水中をアルギン酸が沈降することを確認した先行研究は存在しません。しかし、深海の海底面から,アルギン酸を特異的に分解する微生物由来の酵素が見つかっていることから(Inoue et al., J. Biol.Chem. , 2016: 北大文献集からダウンロード),褐藻類由来のアルギン酸が深海まで運ばれ、アルギン酸を分解する微生物に利用されていることが示唆されています。つまり、大型藻類によるブルーカーボンが効果的に働いている可能性が示唆されるのです。しかし、海洋試料からアルギン酸を直接的に検出・定量した研究事例は、筆者らが調べた範囲では存在しません。アルギン酸粒子の深海隔離によるブルーカーボン効果は確認されていないのが現状なのです。なお、海水中には粘性物質が多く漂っていることが数多くの研究から明らかにされており、海洋学分野では、それを透明細胞外重合粒子(Transparent Exopolymer Particle: TEP)と呼んでいます。(TEPについては、本LASBOS海洋化学コース参照) そのような海水中の透明粒子にライトを照らすと白く光り、雪が降っているように見えることから、マリンスノーの正体とも考えられています。北極の海中動画です。休憩がてらご覧ください。

       この海中動画で見られるマリンスノーは、TEPを含むと思われますが、海洋のネバネバ物質全てがコンブから放出されたものではありません。植物プランクトン由来、動物由来(魚の体を覆うネバネバなど)も沢山あるでしょう。

       TEP分析に際しては、自然海水をフィルターでろ過したのち、フィルター上の有機物粒子をアルシアンブルーで染色、硫酸で抽出された液の呈色が比色法で調べられてきました。海水中にはかなりの量のTEPが存在することから、TEPが海洋物質循環の重要な部分を担っていると考えられています。そのため、TEPを含む有機物中の多糖類の成分を同定する研究も進められてきました。海水や海洋堆積物試料に含まれる多糖類を比色分析で調べたところ、酸性多糖類の一種であるウロン酸が多く含まれることが明かにされています。これらの研究では、アルギン酸由来のウロン酸(マンヌロン酸とグルロン酸)の他、植物プランクトンに由来するウロン酸(グルクロン酸)も多く含んでいるはずです。やはり、大型の褐藻類に由来するアルギン酸を検出した海洋学研究は無いのです。このように、ブルーカーボン研究を海洋学的にアプローチするには、海洋試料中のアルギン酸を分析する手法を確立することから始めなくてはなりません。そこで、私たち北大水産学部では、大型藻類ブルーカーボン研究チーム(別名、アルギン酸チーム)を立ち上げて、海洋環境からアルギン酸を検出することに挑戦することにしました。