2 サケ科魚類の成長に関する研究
北方生物圏フィールド科学センター・清水研究室の紹介です
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魚類を含む脊椎動物の成長には、インスリン様成長因子−I(IGF-I)と呼ばれるホルモンが非常に重要です。しかしその活性は複数存在するIGF結合蛋白により調節されています。私たちは、サケ科魚類においてIGF-IとIGF結合蛋白による成長調節のメカニズムを明らかにすることを目指しています。
魚類の成長は、光周期、水温、餌およびストレスなどのさまざまな要因の影響を受けています。それらの情報は魚の体内で統合され、その結果、内分泌(ホルモン)系による調節がなされます。内分泌学的には、魚類の成長は成長ホルモン(growth hormone, GH)とインスリン様成長因子(insulin-like growth factor, IGF)-Iにより調節されています(図参照)。すなわち、脳下垂体から分泌されたGHは主に肝臓を刺激してIGF-Iの合成を促し、血中に分泌されたIGF-Iが骨や筋肉などの標的器官に作用して成長を促進します。この他にもGHとIGF-Iがそれぞれ独立して直接的に作用する場合も知られています。これらをGH-IGF-I系(もしくはシステム)と呼びます。
IGF-Iは、血中で特異結合蛋白(IGF-binding protein, IGFBP)と結合した形で循環しています。IGFBPはIGF-Iを運搬するだけでなく、IGF-Iの活性を阻害もしくは促進する役割を持っています。ヒトでは6種類のIGFBPが同定され、それぞれのIGFBPが異なる機能を持つことが報告されており、GH-IGF-I系の重要な構成要素として注目されています。(真骨)魚類でも6タイプのIGFBPが存在しますが、本グループに特有のゲノムの倍化により、12種類のIGFBPが存在すると考えられます。加えて、サケ科魚類では、さらなる全ゲノム重複により22種類のサブタイプが報告され、複雑な機能分担が予想されます。
研究目的 私の研究グループはサケ科魚類の血中に複数存在するIGFBPに着目し、それらの生理的役割を明らかにすることを目指しています。
サケ科魚類の血中には3種の主要なIGFBPが存在し、IGF-Iの活性を阻害もしくは促進していると考えられます。
IGFBP-1aと-1bの組換え蛋白を作製し、脳下垂体培養系を用いて作用を調べたところ、IGFBP-1aはIGF-IのGHへの作用を阻害しました。
血中のIGF-IとIGFBP-2bは成長と正の相関、IGFBP-1bは負の相関を示しました。このことから、これらは成長率の指標として有用であると考えられます。
血中IGF-Iを成長の指標として、網走沿岸のサケ稚幼魚の成長状況を評価しました。結果、河口に成長の悪い個体が滞留していることが示唆されました。このような稚魚はその後の成長に依存した減耗を受けることが予想されます。